みんぱくのオタカラ
- ホッキョクグマの毛皮 2009年11月18日刊行
-
伊藤敦規
ドイツのベルリン動物園で人工飼育された、ホッキョクグマの「クヌートくん」の愛らしい姿が記憶に新しい。その哺乳綱食肉目クマ科に分類されるホッキョクグマ(Polar Bear:学名Ursus maritimus)は、2008年5月に米国内務省魚類野生生物局により「絶滅危惧種」に指定された。推定個体数は約40年前の5,000頭から現在の2万2,000頭まで増加したものの、地球温暖化の影響で極北の氷が溶けて生息地が狭まることで、2050年までに三分の二に減少するとされている。
他方、古来ホッキョクグマの狩猟を生業の一部としてきた米国アラスカ州とカナダ極北地域の先住民イヌイットは、米国担当局の裁定に対する反発の意を表明し、指定取消の嘆願書を提出した。あらたな指定による捕獲の禁止が狩猟生活に影響を与えかねないためである。
特別展会場で放映中のアニメーションからもうかがえるように、イヌイットは動物と人間を霊魂のレベルで同一視する文化を育んできた。今後の収集が困難なことに加え、グローバルな動物保護政策の現状と極北先住民の伝統文化の相克を考察する材料としても、みんぱくの貴重な資料といえよう。
伊藤敦規(国立民族学博物館外来研究員)
◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0212672 / 標本名:壁飾り(ホッキョクグマの毛皮)
※特別展「自然のこえ 命のかたち―カナダ先住民の生みだす美」にて公開◆関連ページ
特別展「自然のこえ 命のかたち―カナダ先住民の生みだす美」
配信されたみんぱくe-newsはこちら powered by