国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Egypt  2010年7月23日刊行
園田直子

● エジプトの博物館をめぐる日本の協力

エジプトといえば、まずはツタンカーメン王の秘宝とピラミッドが頭に浮かぶのではないだろうか。もっとも、ツタンカーメンの秘宝は首都カイロのエジプト考古学博物館にあり、三大ピラミッドは近郊のギザ地区にあるという具合に、両者は少し離れている。しかし、しばらくするとその距離はうんと近くなる。

というのも、円借款事業で大エジプト博物館(The Grand Egyptian Museum、略称GEM)建設計画が進んでいるからである。大エジプト博物館は、ギザ地区に2011年以降のオープンを目指しており、それまでにエジプト考古学博物館の収蔵品の大半を移動させるという、一大計画である。博物館本体の建設はこれからだが、併設する大エジプト博物館保存修復センター(GEM-CC)の建物は既に完成し、この6月14日に開館式が行われた。

大エジプト博物館保存修復センターは、ギザ地区の三大ピラミッドにほど近い砂漠の一角にある総面積7000平方メートルの近代的な建物である。保存修復の作業が行われるアトリエは、石、石以外の無機物(陶磁器、ガラス、金属)、木、木以外の有機物(テキスタイル、皮革、パピルス)、人・動物遺物と、材質ごとに整備されており、約120名の修復保存家が雇用されている。その大半を占める新卒のスタッフには、総合的な知識・経験が得られるよう、様々なアトリエで段階的に経験を積んでから最終的な専門分野を選択するという長期的視点からの人材育成の体制が組まれているという。保存修復を支える科学調査、材質や技法の解明の研究、これらを行う化学分析室には、最先端の分析機器が揃ってきている。面積的にも収蔵施設は広大で、そのことからも大エジプト博物館保存修復センターは単に保存修復という対症療法の場だけでなく、資料を収蔵・管理する場であることがわかる。日本からは、独立行政法人国際協力機構(JICA)の事業として、データベース作成への支援と、保存修復分野の研修が行われている。今秋には、みんぱくの教員が、資料の取扱いや収納に関するワークショップに協力することも予定されている。

一般にJICAというと、開発や医療分野での技術協力の印象が強く、このように文化や観光振興に貢献していることはあまり知られていないのではないだろうか。みんぱくでは、滋賀県立琵琶湖博物館と協力のもと、JICA委託事業「博物館学集中コース」を、今年も4月5日~7月17日にかけて実施した。そして、今年度参加した6カ国10名の研修員のうち、2名がエジプトからの参加者であり、それぞれエジプト考古学博物館と大エジプト博物館から来ていた。このコースは、その前身のJICA「博物館技術(収集・保存・展示)研修コース」を含めると17年目となり、今までに52カ国150名の研修員を受け入れている。また、みんぱくは、2007~2009年度のJICA中東地域別「博物館」研修にも協力してきたが、この博物館活動の中心的役割を担う人びとを対象としたコースにも、大エジプト博物館保存修復センターの中核となる保存修復専門家が参加していた。このようにみんぱくは、世界各地の博物館とのあいだにも国際的なネットワークを形成しており、それはわたしたちにとって貴重な財産になっている。

園田直子(文化資源研究センター教授)

◆関連ウェブサイト
国立民族学博物館「博物館学集中コース」
JICA
外務省ホームページ