国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

ブドウ絞り器  2010年10月15日刊行
宇田川妙子

秋、9月から10月初頭にかけて、ヨーロッパ各地ではブドウの収穫が行われる。もちろん大規模なブドウ園を経営する農家も多いが、その一方で、農家でなくとも小さなブドウ畑をもっている者も少なくない。それゆえこの時期、日曜日などに仕事の合間をぬって家族や親せき総出でブドウを摘み取り、ワインを仕込む人々の姿があちこちで見受けられるようになる。ワイン作りは、決して専門家だけの仕事ではないのだ。

こうした小規模なワイン作りは今でも機械化されることなく、昔ながらの道具と各自が培ってきた知識と勘で作業が行われている。この展示品のような手動のブドウ絞り器もその一つである。そして、この絞り器や木製のワイン樽などのワイン作りの道具が、彼らに馴染みの田園生活をほうふつさせるせいか、インテリアとしても好まれていることは興味深い。この展示品はまさにインテリア用に作られたミニチュアだが、使われなくなった絞り器の実物を譲り受けたり骨董屋で購入したりして応接間などに飾る例も少なくない。

なお、グーテンベルクが発明した活版印刷機が、このブドウ絞り器からヒントを得たという話は有名だ。ハンドルを回転させて圧力をかけブドウ汁を絞り出す様子を見て、印刷に応用したのだという。その意味で、ブドウ絞り器は、ヨーロッパの日常生活や生業ばかりでなく近代化とも密接にかかわっているヨーロッパの重要なイコンの一つであるとみなすこともできるかもしれない。

宇田川妙子(民族社会研究部准教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0003412 / 標本名:ブドウ絞り器

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