国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from India  2011年3月10日刊行
池谷和信

● 国際コモンズ会議に参加して

今年の1月中旬、南インドのハイデラバードで開催された国際コモンズ会議(IASC)に参加した。この会議は、2009年にノーベル経済学賞を受賞したオストロム(Ostrom)教授を中心として、世界のコモンズ(共有地)の利用をめぐる諸問題を議論する会議である。日本では、コモンズというと入会地のイメージが強いが、森や海や草原や水などの自然資源に加えて都市ストリート、灌漑施設、温泉、公園など、身の回りにコモンズは多数存在している。同時に、政治学、経済学、地理学、社会学、人類学などの専門家にNGOや行政などの実践家が、コモンズをめぐって取り組んでいるのが好印象であった。マクロからミクロまでの対象、理論からフィールドや実験、各分野には特色があるけれど、お互いが協力してバランスのよい研究のもとに問題解決が必要であると教授は力説する。

さて、私はというと、会議中、まさに緊張の連続であった。「南アジアの牧畜」をめぐるセッションで、バングラデシュのブタの遊牧の報告をしたからだ。日本ではあまり研究は盛んではないが、この地域の放牧地の利用を専門とする多数の関係者が参加していた。幸い、ブタの場合はゴミ捨て場(コモンズ)でも放牧が行われている点、インフルエンザの広がりでそこでの放牧が禁止された点から、新たな資源管理の問題を言及できた。また、招待されたパネルでは、インド、英国、南アフリカ、キルギスタンなどの数人の討論者のなかで、アジア・アフリカの牧畜という広い視野から自分のスタンスを出せたかと思っている。

今回、もっとも驚いたことは、この学会にかけるインドの研究者の熱意と実力である。多様なコモンズ研究のほとんどに食い込んでいたし、会議中に行われた羊飼いの村への現地視察(この他にも森林や水資源などのコースが存在)での案内もすばらしかった。地元の人々と膝を交えて放牧地問題を議論している姿勢がよく伝わってきた。

ちょうど会議中、ハイテク都市として知られる南インドのバンガロールで政府によって都市の露店商が強制撤去にあい、それに反対する人びとがいた。会議の行われたハイデラバードも静かな郊外とは対照的に、中心部では露店商がひしめく雑然とした通りがある。最近、私の通勤途中のJR茨木駅前でも露店禁止のサインが張られるようになったが、「クリーンな都市」が本当に望ましいのか、都市ストリートの利用について改めて考えさせられた。

池谷和信(民族社会研究部教授)

◆関連ウェブサイト
IASC-COMMONS
IASC 2011
インド(日本外務省ホームページ)