国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Japan  2011年4月22日刊行
林勲男

● 災害と向き合う

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、死者・行方不明者数や被害総額、浸水面積だけでなく、原発事故による電力不足や放射性物質の拡散、これらによる各種産業への影響、遠地避難など、まさに「スーパー広域複合大災害」となってしまった。

地震発生の3日前に、私はアメリカ南部のニューオリンズから帰国した。ニューオリンズでは、5年半前のハリケーン・カトリーナ災害被災地の復興と記録化プロジェクトについて調査していた。後で防災学者から教えてもらったのだが、今回の津波で浸水した面積とハリケーン・カトリーナによるそれとはほぼ同じ広さだそうだ。ただ、津波は途轍もない力で自然や建造物を破壊していった。

さらには、安心を与える、あるいは安心を得るために入手した情報が、必ずしも安全を保障してくれるものではないのではないか、との疑念を人々に抱かせたことも、今回の連鎖的な災害の大きな特徴の一つであろう。

さて、何をなすべきか、である。原発依存の見直し、電力消費量を抑えるライフスタイルや価値への転換、「エコタウン」としての地域再建などさまざまな提言がすでに出ている。それぞれが慎重に検討すべき課題である。しかし、私たち誰もができることは、被災地の復興あるいは再生の歩みと共にその時点時点で一人一人がやるべきことを考えていくことであり、それを実行に移していくことではないだろうか。

ひと月が経過しても、被災地では未だ人道支援の段階から抜け出していない。ハリケーン・カトリーナの時に「これがアメリカか」とか「これがアメリカの現実だ」という声が上がったが、同じことが今、日本について言われている。本業を生かすことも重要だが、本業の傍らで、災害の現実と真摯に向き合いながら、役立つことを始めたい。「東日本大震災」という名前には、西日本への警鐘が重低音で響いていることも心に留めながら。

林勲男(民族社会研究部准教授)

◆関連ウェブサイト
東日本大震災
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