国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

鯨の歯の使い方  2011年8月19日刊行
丹羽典生

もしあなたがフィジーに住んでいてきれいな娘を見染めたとしましょう。プロポーズするときに必要なものは、何でしょうか。お金、それとも牛や豚。いずれも結婚式には必要となるものですが、なにより重要なのは、鯨の歯です。結婚の申し込みに際しては、ひとつあれば数は十分ですが、大きければ大きいほど価値が高いとされています。

フィジーの文化的文脈において、鯨の歯は重要視されています。結婚式、葬式のほか、首長の間のいさかいを収めたりする際にも、人々の間で交換されます。鯨の歯は、このようにいわば市場にのらないで流通する交換のための財なわけです。もっとも近年では、古道具屋のかげでこっそり売られていることも珍しくはありません。

みんぱくの展示場にも鯨の歯は展示されています。同僚によりますと、この鯨の歯、フィジーでは広く知られた19世紀の宣教師虐殺事件の背後で、殺害の指令を出す際にさる首長によって使われたものである可能性があるということです。もっとも当方の調査では、まだ真偽のほどは定かではありません。展示場で目にするたびに、いつか真相を明らかにしたいという思いを新たにします。

丹羽典生(研究戦略センター助教)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0136335 / 標本名:鯨の歯

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◆関連ページ
新展示フォーラム「どっぷりオセアニア―夏のみんぱくフォーラム2011」(2011年6月19日(日)~8月21日(日)開催)