国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

日本人が好む輪タク  2012年8月17日刊行
関本照夫

インドネシアやマレーシアに行ったことがある日本人に人気の高い乗り物が、インドネシア語でベチャ、日本語で輪タクという三輪の自転車タクシーである。

地域により座席の位置はさまざまだ。ジャワ島のベチャは、人がこぐ自転車の前部に乗客用の席がある。東南アジア展示場で、ジャワのベチャとならんでいるマラッカのベチャは、乗客席が自転車の横にあるし、スマトラでは自転車の後ろに席がある。多民族の国インドネシアでは、自分と異なる民族についてのジョークがさかんで、スマトラの人は「ジャワ人は人が悪いから、事故に遭って乗客が怪我しても、こいでいるベチャ引きは無事なように、前に客席がついている」という。もちろん根拠はない。

展示場に陳列されているジャワのベチャは、座席を上から覆う屋根が折りたたまれている。現地でこうして走っているのは、陽に当りたいヨーロッパからの観光客を乗せたベチャに限る。英領時代のマレーシアに「日中陽向を歩くのはイギリス人と狂犬だけ」という言葉があったように、東南アジアには、わざわざ陽に当りたい人はいない。

40年前ならどこでも無数に走っていたベチャだが、自動車の増加、町の中心街や大通りをベチャ禁止区域にしたがる警察の取締りなどで、表通りでは見つけにくくなっている。乗ってみたければ裏通りや、やや郊外で探すこと。メーターはないから料金は交渉してください。

関本照夫(先端人類科学研究部特任教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0198375/資料名:ベチャ(輪タク)

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