みんぱくのオタカラ
- 人肉用フォーク 2012年12月14日刊行
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丹羽典生
人類の文化と争いに関心がある人にとって、武器やそれに関連したモノは興味深い材料となります。なかでも、フィジーの人肉用フォークは、独特な造形とも相まって異彩を放っています。フォークの先は円形状に並び、柄は片手で握るサイズです。皿に盛られた料理を刺すには向いていないでしょう。南太平洋のフィジーでは、19世紀前半まで部族がお互いに血で血を洗い流す戦の世界でした。当時のフィジーを訪れた宣教師たちを何より驚かせたことのひとつは、彼らのあからさまな人食いの慣行でした。宣教師の記録の中には、フィジー人にとって白人の肉は塩辛くておいしくないという一節があったりします。
人肉用フォークは、普段は素手で食するのが作法のフィジーにおいて、人肉食の際だけに使われた特別な道具といわれています。死体は竹のナイフで細切れにされ、石蒸しにされたそうです。食人行為は戦士の通過儀礼の一端でもあり、殺して食した人肉の数は、戦士のプライドとかかわっていました。しかし残念なことに、このフォークが具体的に食人の際にどう使われたのかは、実ははっきりしません。知り合いのフィジー人に言わせると、脳を食べるときに使ったそうです。曰く、「魚の脳みそはおいしいだろ、われわれの祖先もそう考えて人間の脳みそを食べていたんじゃないのか。」真偽は定かでありませんが、館内の人肉用フォークの展示を前にしたとき、以上の情報を念頭におくと、より深く見ることができるかもしれません。
丹羽典生(民族文化研究部准教授)
◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0125130/資料名:人肉食用 フォーク
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