国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

椅子  2013年4月19日刊行
飯田卓

特別展「マダガスカル 霧の森のくらし」で展示されている、ザフィマニリ地域からの収集品。いっけん変哲のない椅子だが、よく見ると、4本の脚も背板も座板と同じ木でできており、継ぎめがない(部分アップ写真参照)。1本の木からこのような形を彫りだすためには、完成品の体積よりも多くの木屑が出たことだろう。

このように材料の面でも手間の面でも無駄の多いつくりかたは、独立直後のマダガスカル経済を支えたヨーロッパ人にむけて木彫り仕事が始まった1960年代頃、わずかな期間に のみおこなわれたと推測される。当時、ヨーロッパ人が用いるものをつくり、ザフィマニリ地域に伝わる幾何学的な浮き彫り文様をほどこして売れば、莫大な現金収入が得られた。

現在は、ザフィマニリ地域まで足を運ぶ外国人観光客が多いため、ひとつの品に手間ひまかけるより、安い品を大量に売ったほうが実入りがよい。いまやこの椅子と同じようなものがほとんどみられないのは、そのためだろう。この歴史的な資料を保管している博物館は、ひょっとすると、世界じゅうでもみんぱくだけかもしれない。

飯田卓(先端人類科学研究部准教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H267964/資料名:椅子

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◆関連ページ
特別展「マダガスカル 霧の森のくらし」(2013年3月14日~6月11日)