みんぱくのオタカラ
- メンドン 2013年7月19日刊行
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笹原亮二
薩摩半島の南に位置する鹿児島県十島村の硫黄島では旧暦8月1日・2日に八朔(ハッサク)太鼓踊が行われる。太鼓を腹に抱えた踊り手が鉦(カネ)と歌にあわせて踊るこの踊りは、全国各地で見られる風流(フリュウ)の太鼓踊と同系統に属するが、ほかと異なるのはメンドンと呼ばれる異形の風体の役が登場する点である。
メンドンは踊りの最中に現れ、踊り手を邪魔したり見物人を枝で叩いたり襲ったりして大暴れする。子供から若者までの男性が扮し、襲われるのはもっばら女性で、誰が扮しているかは秘匿される。そんなメンドンは一体何者か。島の人によれば「メンドンはメンドン」とのこと。とはいえ、枝で叩いたり襲ったりするのは厄祓いで、厄災を島外に追い出す儀礼に加わり、天下御免で何をしても許されるメンドンの様子からは、人々に福をもたらす超越的な存在であることがうかがえる。
一昨年、みんぱくの展示のために島から船積みされたメンドンに、たまたまそれを目にした村長からストップがかかった。何度も踊りに加わり大活躍したメンドンの仮面は少々くたびれすぎではないかというのである。天下御免のメンドンも村長にはかなわなかったらしい。もっとも、おかげで真新しく神々しい勇姿が展示されることになったのだから、メンドンにとってかえってよかったのかも知れない。
笹原亮二(民族文化研究部教授)
◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0270238/資料名:メンドン◆関連ページ
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