国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

ジャガー人間石彫の発見  2014年4月18日刊行
関雄二

昨年9月、ペルー北高地に位置するパコパンパ遺跡で石彫を発見し、内外で報道された。パコパンパ遺跡は、アンデス文明初期の神殿で、石彫は紀元前800年頃にあたる。4ヘクタールにわたる広大な神殿は3段の基壇から構成され、各段をつなぐ階段を探していた最中の出来事であった。階段は神殿全体を貫く中心軸上にあるので、その近くに据えられていた石彫も、神殿で重要な役割を果たしていたことは間違いない。

石彫の高さは1メートル60センチほどで、全体としては人間の姿をしているが、顔をみると口から牙をむき出しているので、ジャガー人間と名付けた。ジャガーは、ヘビ、猛禽類とともに当時の人々の信仰に深く関わった動物の代表格である。

私が注目するのは、こうした動物と人間が合体した姿、そしてそれが石という耐久性の高い物質に彫られた点である。それまでは、土器や壁画といった耐久性の低い素材を用いており、また動物も単体で描かれていた。おそらくこの変化は、神殿での活動を司るリーダーの権力が高まり、聖なる動物に変身できる、あるいはそれらを統御できる力を恒常的に表現したいという意欲が現れたからだと思われる。

それが証拠に、石彫が登場する時代には、金製品を伴う墓が登場し、そこに葬られた人物の頭骨には変形も認められている。頭蓋変形は、生まれてすぐに板を頭に当てたり、帯を巻かないとできず、また一部の埋葬だけに認められることから、被葬者は生まれながらにリーダーとしての行く末が約束された人物であったことがうかがわれる。

もう一つおもしろいのは、この石彫が、神殿が放棄された後の時代に意図的にうつぶせに倒されていた点である。もともと石彫が持っていた意味はすでに忘れ去られていたであろうが、依然として聖なる力を持っていたがゆえに、それを畏れた後代の人々の手で封印されたと考えている。

関雄二(研究戦略センター教授)

◆関連ウェブサイト
毎日新聞社ニュースサイト
ペルー共和国(日本国外務省ホームページ)