巻頭コラム
- もう一つの客家遺産 ~中国南部~ 2014年8月1日刊行
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河合洋尚
2008年7月、中国で「福建土楼(どろう)」が世界遺産に登録された。土楼は、同じ姓をもつ親族が共に住む大型の集合住宅であり、円形ドーム型の特徴的な外観で知られる。近年では、日本の旅行ガイドブックでも、写真つきで紹介されることが多くなってきた。今では中国の重要な観光資源となっている。
土楼は、福建省西南部に主に分布しているが、この地域には客家(はっか)と呼ばれるエスニック集団が多い。それゆえ、この住宅は、「客家土楼」と呼ばれることもあり、客家のシンボル的な建築物とみなされる傾向が強い。ここ数年間、もともと土楼がなかった中国広東省、江西省、四川省、さらには台湾、マレーシアなどの客家地域でも、土楼型の近代的な建物が次々と建てられるようになっている。
私はここ10年以上、毎年、広東省の山地にある梅県を訪れ、調査をしている。梅県は世界に散らばった客家の故郷として名高いが、もともと土楼はなかった。ところが最近、梅県の政府や開発業者は、土楼が客家のシンボルだというので、円形ドーム型のホテル、マンション、博物館などを建設するようになっている。
しかし、実際にそこで何十年も暮らしてきた人々は、突如現れてきた円形ドーム型の建物に戸惑いを隠せずにいる。そもそも梅県には、梅県こそが客家の中心であり、ここの文化が真正なる客家文化であると考える住民が少なくない。だから、「土楼など本当の客家文化ではない!」と断言する者すらいる。
そうしたなか、特に梅県のエリート層は、囲龍屋(いりゅうおく)という別の建築物に注目するようになっている。囲龍屋は、土楼と同じ集合住宅であるが、馬蹄形で、何より梅県の人々が実際に暮らしてきた家屋である。囲龍屋のなかには築後数百年経ち、すでに使われなくなったものも少なくない。しかし、土楼が世界的に注目されるにつれ、梅県の人々は、むしろ囲龍屋に愛着を抱くようになり、保全運動も展開するようになった。
現在、梅県政府も囲龍屋の価値を認め、ユネスコの世界遺産候補として申請している。世界遺産の認定が、もう一つの「文化遺産」を生み出しているのである。
河合洋尚(研究戦略センター助教)
◆参考写真
土楼
囲龍屋◆関連ウェブサイト
梅州市人民政府ホームページ(中国語)
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