国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

カバディのプロスポーツ化  2015年10月1日刊行
三尾稔

カバディをご存知だろうか?古代インドが起源で、南アジア各地でさまざまな形態で行われている競技である。近代的な国際競技ルールでは、7人ずつの2チームが向かい合わせになったコートに陣取る。攻撃側から1人が相手陣に突進し、「カバディ、カバディ」と唱えながら、守備側のメンバーにできるだけ多くタッチし自陣に戻る。守備側は攻撃者を捕まえて自陣に帰らせないようにする。「カバディ」の掛け声を途切らせることなく自陣に戻れれば触れた人数分だけが得点。逆に帰陣の妨害に成功すれば守備側に1点が入る。攻守交替を繰り返し、前後半それぞれ20分ずつの試合時間の中で得点を競う。守備側は激しいタックルを見舞うなど、数人がかりで攻撃者を押さえ込む。攻撃側もさまざまなテクニックを使って相手の隙をつく。「球を使わないラグビー」とも称される、格闘技的なゲームである。

インドではカバディが昨年からプロ化し、現在は8つのプロチームによるリーグ戦がゴールデンタイムにテレビ中継され人気を集めている。見てみると確かに面白い。試合の合間にインド映画の俳優の一喜一憂の表情が大写しで中継されるのも面白い。有名な俳優がオーナーや関係者になっているチームがいくつかあり、その俳優たちが映されるのである。視聴者はゲームと同時に俳優たちの生の表情も楽しめる。そこがまた人気を上げるからくりになっているのだろう。インドの娯楽における映画の重要性がよくわかる。

映画俳優がプロチームの関係者となり、彼ら/彼女らの試合中の様子が実況され、それが視聴者の人気を高めるやり方は、インドの代表的な娯楽であるクリケットでも見られる手法だ。クリケットのプロリーグは2008年に始められ人気を博しているが、その成功例がカバディに持ち込まれたのである。インドのプロスポーツは経済成長が安定した2000年代以降に定着した。日本や欧米のようなプロスポーツ先進国では、競技のプロ化からしばらくしてマスメディアや他の娯楽ジャンルとの融合が起こっている。しかし、後進のインドではメディアとのミックスが最初からセットになっている。プロスポーツにも「お国ぶり」が現れるのである。

三尾稔(研究戦略センター准教授)

◆関連ウェブサイト
STAR SPORTS.COM カバディプロリーグ(英語)

日本カバディ協会

 

インド(日本国外務省ホームページ)