巻頭コラム
- 企画展「津波を越えて生きる」を開催しています 2017年2月1日刊行
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竹沢尚一郎
1月19日から4月11日まで、企画展「津波を越えて生きる――大槌町の奮闘の記録」を開催します。東日本大震災で大きな被害を出した岩手県大槌町に焦点を当て、津波を越えて生き抜いた人びとの行動を示すことを目的とする展示です。
展示はつぎのテーマからなります。人びとは津波をどのように経験したか。津波が引いてすぐ、人びとはどのように行動したか。大槌町の多くの避難所では数ヶ月にわたって避難者同士の助け合いがおこなわれたが、なぜそれが可能だったのか。
なかでもこの展示は大槌町の吉里吉里に焦点を当てています。人口2500のこの集落は20メートルに達する津波に襲われ、100人の住民が生命を奪われました。それでも、津波を逃れた人びとは津波の直後から生存者の捜索を開始し、避難所の運営に尽力しました。津波が破壊した商店から流出した食料を集めて食事を作り、ポンプを自作してガソリンスタンドの地下タンクから灯油を汲み出して暖房をとり、がれきを撤去して道路を開削し、5ヶ月にわたって炊き出しをおこないました。津波によって半数の家々が破壊されたこの集落で死者が全住民の4パーセントにとどまったのは、奇跡的とも思われるこうした共同作業があったためです。
私は岩手県での経験から、被災後の生活をいくつかの段階に分けるとよいと考えています。大災害が発生したなら、とにかく逃げ、身近にいる人びとと協力しながら生き延びることを優先する自助努力の三日間。自衛隊などの外部の支援が入ったとしても、住民が中心になって避難所の運営にあたる共助の三週間。自衛隊や自治体、国などと協力しながら生活の再建をめざす共助公助の三ヶ月。そして、行政と協力しながら地域の再建にあたる公助の三年間です。
南海トラフ大地震などの巨大地震が近い将来に生じると予想されています。この展示が、どのような備えをすべきかを考え直すきっかけになることを展示責任者として願っています。
竹沢尚一郎(民族文化研究部教授)
◆関連写真
大槌町被災前
大槌町被災後
◆関連ウェブサイト
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