巻頭コラム
- カナダ建国150周年と先住民政策 2017年9月1日刊行
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岸上伸啓
多民族国家カナダは、2017年に建国150周年を迎えた。もともと現在の国土には、先住民と総称される人びとが住んでいたが、1500年ごろよりイギリスやフランスなどヨーロッパからの入植が本格的にはじまった。その後、入植者が、人口的にも政治経済的にもカナダにおける主流派となった。そして彼らと先住民との関係は、この150年の間に政策を通して大きく変わってきた。
初期の入植者は、カナダ東部地域の先住民からビーバーなどの動物の毛皮を入手し、巨額の富を築いた。先住民もこの交易からヨーロッパ製品を手に入れた。しかし、ビーバーの数が減少するにしたがい、毛皮交易の中心は西方に移っていった。増加し続ける入植者が農牧地を拡大させ、1867年にイギリスの植民地を統合してカナダを建国すると、入植者と先住民の関係は、それまでの共生的なものから支配・被支配的なものへと一変した。
カナダ政府は先住民と不平等な土地譲渡条約を結び、少額の補償金や狭いリザーブ(保留地)と引き換えに広大な土地を国有化した。そして寄宿舎学校における同化教育の実施や伝統的儀礼の禁止などの文明化政策を実施した。この政策は、多様な先住民文化の継承に悪影響を与えることになった。
しかし、1970年代になるとカナダ政府は先住民政策を大転換し、先住民の権利について当事者と話し合いを始めた。この結果、クリーやイヌイットらの先住民は土地権を獲得した。また、1982年にカナダ憲法によって先住民の権利を保障し、1995年に先住民の自治を認める政策を採用した。さらに2008年には、カナダ首相が寄宿舎学校での先住民児童虐待の過ちを認めて公式に謝罪し、真実和解委員会を設けた。このようにカナダ政府は、先住民との共生の道を模索している。
世界各地の先住民の大半は現在でも社会・政治・経済的問題を抱えているが、カナダ政府は先住民の権利を重視する大胆ともいえる先住民政策を推進している点で、他国よりも一歩も二歩も進んでいる。先住民が満足する生活を送ることができる国家こそが、ほんとうに豊かな国であろう。アイヌが住む日本は、民族や文化の共生についてカナダから多くのことを学ぶことができると思う。
2017年9月7日(木)から12月5日(火)までみんぱくにおいて、多様なカナダ先住民文化とカナダ国家との関係に焦点をおいた企画展「カナダ先住民の文化の力―過去、現在、未来」を開催する。ぜひ、ご覧頂きたい。
岸上伸啓(学術資源研究開発センター教授)
◆関連写真
カナダの日を祝うイヌイット(カナダケベック州ヌナヴィク・イヌクジュアク村、1998年7月1日、岸上伸啓撮影)
◆関連ウェブサイト
開館40周年記念・カナダ建国150周年記念企画展「カナダ先住民の文化の力―過去、現在、未来」配信されたみんぱくe-newsはこちら powered by