国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

「標(しめぎ)コレクション」から考える世界のコーヒー文化  2017年10月1日刊行
相島葉月

みんぱく開館40周年を記念して、9月28日(木)から11月14日(火)まで、新着資料展示『標交紀(しめぎ・ゆきとし)と咖啡(コーヒー)の世界』を開催します。昨年本館に寄贈された300点以上にのぼるコーヒー関連器具「標コレクション」から厳選した約50点を展示します。本展示では、中東・アフリカからヨーロッパと日本をつなぐ嗜好品としてのコーヒーを通じて、ある日本人のグローバル史観を検証します。

1940年に東京に生まれ、映画監督を目指していた標交紀は、1962年に吉祥寺にコーヒー店「モカ」を開きました。当初はコーヒーの味も分からず、生活の糧を得るために始めた稼業でした。しかし、自家焙煎コーヒーの美味しさに目覚めてからは、日本の風土にあったコーヒー豆を開発するために不眠不休で焙煎に臨みました。自著によると、寝ながらも手動の焙煎機を回していたこともあったそうです。標はより美味しいコーヒーを求め、イギリスやイタリアにはじまり、コーヒー発祥の地とされるイエメンやエチオピアを旅し、多種多様なコーヒーを味わい、数百点にのぼるコーヒー関連器具を収集するに至りました。パリの国立図書館を訪問した際には、世界最古のコーヒーについての記述があるアラビア語の文書の複製を持ち帰っています。アラビア語が読める訳ではなくとも、人類史にとってのコーヒーの記録としてこの文献に目をつけたのだと思います。

標は世界各地で収集したアンティークのコーヒーポットや焙煎器具などを店に展示していました。標の著書を読み、「標コレクション」を眺めていると、標は自家焙煎咖啡店「もか」に訪れた客が、コーヒーの文化と歴史のグローバルな広がりを感じながら一杯の咖啡を堪能できるようにと自身のコレクションを展示していた気がしてなりません。標交紀が急死してから10年。伝説の自家焙煎咖啡店「もか」が、みんぱくに復活します。

相島葉月(グローバル現象研究部准教授)

 

◆関連写真

H0279488:人形(ウィーンでのカフェ開業300周年記念につくられたもの。)


H0279485:自家焙煎咖啡店「もか」の看板


H0279474:コーヒーカップ(18世紀にフリードリヒ大王によって設立されたベルリン王立磁器製陶所の製品。)


 

◆関連ウェブサイト
開館40周年記念新着資料展示「標 交紀(しめぎゆきとし)の咖啡(コーヒー)の世界」