国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

みんぱく開館40周年を迎えるにあたって  2017年11月1日刊行
吉田憲司

みんぱくは今年開館40周年を迎えました。この40年間にみんぱくが世界各地で収集してきた標本資料は、現在、約34万5000点を数えますが、これは20世紀後半以降に築かれた民族学関係のコレクションとして世界最大のものとなりました。また、民族学に特化した博物館としてみても、みんぱくは、その施設の規模において世界最大の民族学博物館となっています。

梅棹忠夫・初代館長は、創設の段階から「世界第1級の博物館」をめざすと宣言しておられたのですが、すでにみんぱくは、梅棹初代館長の目指した「世界第1級の博物館」としての実を備えるようになったといってよいようです。

人類の文明は、今、数百年来の大きな転換点を迎えています。これまでの、中心とされてきた側が周縁と規定されてきた側を一方的にまなざし、支配するという力関係が変質し、従来、それぞれ中心、周縁とされてきた人間集団の間に、創造的なものも破壊的なものも含めて、双方向的な接触と交錯が至る所で起こるようになっています。それだけに、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界の構築をめざす文化人類学の知が、これまでになく求められているように思われます。次代に向けてみんぱくに課せられた責務は、きわめて大きいと考えています。

みんぱくでは、今、「フォーラム型情報ミュージアム」というプロジェクトを進めています。このプロジェクトは、みんぱくが所蔵する標本資料や映像資料の情報を、国内外の研究者や利用者ばかりでなく、それらの資料をもともと製作した地域の人びと、あるいはそれが写真なら、その写真が撮影された現地の人びとと共有し、そこから得られた知見を共にデータベースに加えて、新しい共同研究や共同の展示、コミュニティ活動の実現につなげていこうというものです。それは、人とモノ、人と人がそこで出会い、そこから新たな活動や挑戦が始まっていくという「フォーラムとしてのミュージアム」のあり方を、博物館の資料情報の蓄積のあり方、さらには人類学の研究活動のあり方にも徹底させていくものといってよいと思います。

今後とも、みんぱくを皆さまの知的探求の場として活用していただきますとともに、みんぱくの活動にご支援賜りますよう、お願いいたします。

吉田憲司(国立民族学博物館長)