国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

アーミッシュ・キルトを訪ねて――ささやかなキルト・ドキュメンテーションへ  2018年6月1日刊行

鈴木七美

現在、アーミッシュ・キルトをテーマとした企画展(6月21日~9月18日)の準備をしている。アーミッシュ・キルトは、米国のキリスト教再洗礼派アーミッシュの中でも、聖書の解釈に基づき馬車を使い、昔ながらの生活を守るオールドオーダー・アーミッシュによってつくられてきた。簡素な生活と無地の服装というきまりに従うかれらのキルトの多くは無地の布から構成されている。1970年代以降、アーミッシュ・キルトは、その独特の色合いと幾何学模様が抽象的デザインとして注目され、ニューヨークのホイットニー美術館展示(1971年)などを通じて広く知られるようになった。服飾メーカー、エスプリの創業者が収集したアーミッシュ・キルトは、米国サンフランシスコの社屋のそこここに掲げられ、服の色やデザインを考える社員たちにインスピレーションを与えたといわれる。

 

1980年代以降、米国ではキルト・ドキュメンテーション活動がさかんとなっている。一般には、呼びかけに応じて家に保存してあったキルトを持ち寄る人びとから、キルトの情報を聴き取り、撮影をして情報を蓄積するといった活動である。結婚や子どもたちの誕生祝いに作られたキルトや、出立する際に贈られた寄せ書き風の刺繍キルトを広げ、ボランティアと語り合う間に、モノを介して人生の思い出が共有されていく。

 

アーミッシュ・キルトについては、インディアナ州をはじめ中西部の家々を訪ねまわって譲り受けたキルトから構成される有名なコレクションがある。アーミッシュが集住する町に移り住み、万事屋の店主を務めつつ情報を集めたポッティンジャーが、キルト愛好者、研究者、コレクターの協力を得て収集したコレクションだ。それは、現在インディアナ州立博物館に保存されている。みんぱくコレクションは、2011年から3回の収集の結果である。アーミッシュの人びと、アーミッシュと親しく交流してきた人びと、ポッティンジャーコレクションやエスプリコレクションに関わった人びとなどから譲り受ける過程で得られたキルト・ドキュメンテーションの成果の一端を企画展で提示する。それらは、キルトへの関わりから、人びとが環境や様々な文化とどのように交流してきたのかを照らし出している。

 

鈴木七美(国立民族学博物館教授)

 

◆関連写真

アーミッシュのベッドカバーと服の着用について実演し説明する
再洗礼派メノナイトのキルト研究者・ディーラー(インディアナ州、2016年)


 

◆関連ウェブサイト
国立民族学博物館調査報告(Senri Ethnological Reports)No.141
「アーミッシュたちの生き方:エイジ・フレンドリー・コミュニティの探求」