巻頭コラム
- 工芸継承―東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在 2018年9月1日刊行
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特別展「工芸継承―東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在」では、日本のインダストリアルデザインの原点でもある商工省工芸指導所(工芸指導所)の活動に注目し、脈々と継承される伝統の技と洗練されてゆくデザインの奥深さを紹介するとともに、ここで培われた素晴らしいデザイン力や技術力を次の世代にどのように継承するのかをテーマとしている。
工芸指導所は宮城県仙台市に昭和3年(1928年)に設立された。工芸技術やデザインの研究、指導を目的として、工芸の近代化と輸出振興、東北地方の工芸界の発展をめざした活動が進められた。また、世界的にも著名な建築家のブルーノ・タウトやデザイナーのシャルロット・ペリアンに指導を仰ぐなど積極的な活動を展開する。その結果、日本のインダストリアルデザインの先駆けを担った剣持勇や豊口克平らを輩出した。これらの活動から、工芸指導所は、まさに日本におけるインダストリアルデザインの原点であることが読み取れる。その後、工芸指導所は、昭和14年(1939年)に大阪に関西支所を設立、翌年には本所が仙台から東京に移転し、全国的な組織に発展する。
本特別展を開催するにあたり、工芸界で活躍する若手職人や、デザイン・工芸に関心を持つ学生たちが共同して、「くらしを豊かにする新しい工芸作品」をテーマとした作品を制作した。また、先人から連綿と受け継がれてきた工芸技術を大学や博物館でどのように継承するのかを検証するとともに、家業として受け継がれる工芸技術の伝承の実際について研究をおこなった。本特別展では、これらの成果についても紹介する。
漆細工や木工、組物など、わたしたちの日常を彩る工芸品は、美しさと機能性をそなえている。このような世界に誇る日本の工芸品が、工芸指導所の精神を受け継ぎつつ、今後どのように世界に挑戦していくのか。このような視点から、これまでの工芸、これからの工芸を考えてみたい。
日高真吾(国立民族学博物館准教授)
◆関連写真
組み合わせ小箱(東北歴史博物館)
◆関連ウェブサイト
東北歴史博物館
特別展「工芸継承」(開催時のサイト)金沢美術工芸大学
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