巻頭コラム
- 企画展「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年 ―「みられる私」より「みる私」」 2019年7月1日刊行
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企画展「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年―「みられる私」より「みる私」」が始まった。この展示では、片倉もとこ(みんぱく名誉教授。元国際日本文化研究センター所長)がサウジアラビアの調査地で収集した資料や撮影した写真をもとに、この半世紀でオアシス(アラビア語でワーディーとよばれる涸れ谷。ふだんは荒れ地だが雨季には豊富な水が流れる)での女性たちの暮らしがどのように変化したかを紹介している。
同展示では、現地の人たちといっしょになって半世紀前の資料について議論を重ね、この作業を通してあらたな発見があった。それだけにとどまらず、片倉もとこと深い親交をむすんでいた現地の人たちと再会することで、半世紀の時の流れをはさんであらたな関係をつくることができた。この点にこそ、今回の展示を企画した意味があったと実感している。
片倉もとこがはじめてサウジアラビアのフィールドに入ったころ、わたしは小学生だった。言語学をこころざし大学院で修士論文を書きあげたころ、今で言うところの特別共同利用研究員としてみんぱくに受けいれてもらった。初日に教員食堂で昼食をともにしたときのことを今でもよく覚えている。それからしばらく後にはみんぱくに勤めるようになった。人と人のあいだには不思議な縁があるのだろう。
現在みんぱくでは、「フォーラム」という言葉をキーワードに、研究者とその研究の対象となる現地の人びと、あるいは研究者による展示を観る人びととの関係性を通して研究成果を視覚化し、あらたな文化創造の場を実現しようとこころみている。片倉もとこがフィールドで見たもの、感じたことの意味を半世紀後の今日、ともに考えてみたいと思う。
西尾哲夫(国立民族学博物館教授)