国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

ようこそ驚異と怪異の迷宮へ!――世界の霊獣・幻獣・怪獣があなたを待っている  2019年9月1日刊行

山中由里子

世界中の人々の想像界に息づくクリーチャーたちを展示した特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」が、ついにオープンいたしました!ゲゲゲの鬼太郎とハリー・ポッターとアラジンが出会ったら…、そんな世界観を妄想しながら、数年がかりで企画してきた展覧会です。3か月の会期中、1か月ごとに展示替えがあります。ぜひ3回は見に来てください。知的好奇心と遊び心に満ちたみんぱくファンの皆さんには、きっと楽しんでいただけると思います。

 

「水」、「天」、「地」のセクションに分けられた第1部「想像界の生物相」は、人魚、竜、鳥人、天馬、巨人など、地球上の動物界、植物界、鉱物界に見出された素材をブリコラージュ(寄せ集め)した多様な合成生物が並ぶ、まさに、みんぱくだからこそできる「怪物百科展」です。第1部最後の「驚異の部屋の奥へ」のセクションには、江戸時代後期に長崎の出島からオランダの「驚異の部屋」(ヴンダーカンマー)に渡った人魚、ろくろ首、鬼などの幻獣ミイラが、ライデン国立民族学博物館から一時帰国いたします。海遊館からお借りするメガロドンの巨大な顎骨、三次もののけミュージアムからお借りする湯本豪一コレクション、辰巳家伝来の能面などなど、借用資料もどれも主役級。

 

第2部「想像界の変相」では、「聞く」、「見る」、「知る」、「創る」のセクションの順に、未知なる世界の驚異や常ならざる怪異が、どのように認識され、知識体系に整理され、創作のインスピレーションとなっているのかを探ります。『針聞書』(九州国立博物館蔵)や『姫国山海録』(東北大学蔵)など、妖怪好きにはたまらない貴重な資料と、キルヒャー、ゲスナー、ヨンストンスなどのヨーロッパの博物誌が並ぶだけでも珍しいのに、さらにそこに中東の百科全書が加わるのが今回の特展のミソです。パリ国立自然史博物館からお借りした17世紀頃のペルシア語博物誌はおそらく世界初の展示。潜水艇で海底探索をするアレクサンドロス大王が描かれています。漫画家の五十嵐大介氏が、この展覧会のために描き下ろししてくださったオリジナル作品や、ファイナルファンタジーXVのモンスターデザインのプロセスも紹介します。

 

山中由里子(国立民族学博物館教授)

 

◆関連写真

幻獣には厳重な梱包。


 

ライデンから無事到着した「人魚のミイラ」。


 

演示中の作業机。もうここに研究室を移したい…。


 

◆関連ウェブサイト
特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」