国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

特別展「先住民の宝」  2020年3月1日刊行

信田敏宏

特別展「先住民の宝」が、2020年3月19日から6月2日まで開催されます。この特別展では、本館の研究者による最新の研究成果を元に、世界の各地に暮らす先住民を紹介します。特に焦点をあてるのは、オーストラリアのアボリジニ、マレーシアのオラン・アスリ、台湾のタオ、ネパールのアーディバーシー、グアテマラのマヤ、アフリカのサンとソマリ、カナダの北西海岸先住民、北欧のサーミ、日本のアイヌです。そして、「宝」を共通のテーマとしながら、これら先住民の歴史や現在の暮らし、彼らが抱える問題や国家の課題など、彼らをとりまく状況を様々な角度から紹介します。

 

この特別展でいう「宝」とは、いわゆる金銀財宝ではありません。先住民にとっての「宝」とは、家族や親族かもしれないし、気の合う仲間かもしれません。海や森などの自然環境や、生活用具の場合もあるでしょう。祭りや儀礼、伝統芸能、あるいは、彼らの心の中にある民族の誇りや、この世には存在しない精霊や祖先かもしれません。いずれにしても先住民の宝とは、彼らの日々の生活にあたたかな光を与えるものであることは確かです。

 

現在でもなお安穏とは言い難い境遇に生きる先住民も少なくありません。土地を奪われ、住処を追われ、生計の手段をも奪われる人びとは後を絶たず、差別や偏見に苦しむ先住民や、自然環境が悪化し生活に不安を感じている先住民も多くいます。

 

しかし、圧政や差別に苦しみながらも、彼らは屈することなく日々を力強く生きてきました。そうした彼らにとって、宝は心の拠り所であり、民族としての誇りでもあります。そして何よりも宝は彼らにとって希望そのものなのです。特別展「先住民の宝」では、多くの展示品を通して、先住民の心にふれていただければ幸いです。

 

 

 

信田敏宏(国立民族学博物館教授)

 

◆関連ウェブサイト

特別展「先住民の宝」