国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

舟から見るサピエンス(人類)と海の文化  2020年7月1日刊行

小野林太郎

6月18日より再開した本館の常設展示。入り口すぐのオセアニア展示場で最初に目に入る展示コーナーに遠洋航海カヌーのチェチェメニ号がある。海を越えた人類の移住を考える上で、舟は人類学的にも重要な物質文化だ。

 

昨年度より新たにスタートしたフォーラム型情報ミュージアムのプロジェクト「海域アジアにおける人類の海洋適応と物質文化」では、国立民族学博物館が所蔵する東南アジアやオセアニアにおける海と密接に関わる標本資料の再検討を進めてきた。

 

これらの資料には多種多様な漁具も多いが、資料としてのインパクトが高いのは、やはり舟であろう。私たち現生人類、ホモ・サピエンスは世界の各地で様々な風貌、構造をもつ舟たちを創造してきた。これらの舟たちは、魚を獲る際に使われたり、モノを運ぶために使われたり、チェチェメニ号(写真1)のように島から島への長距離移動に使われたりしてきた。東南アジアのボルネオ島やスールー海に暮らすバジャウ人が愛用したレパ舟のように、家舟(えぶね)として使われた舟もある。

 

本館にもかつてこのレパ舟の展示があったのだが、残念ながら今はお蔵入りしている。この他にも本館が所蔵する舟の標本は少なくないが、その多くが舟専用の収蔵庫に保管されているのである。一般の方々には公開されていないが、この収蔵庫には実に50隻以上におよぶ世界各地の舟たちが勢ぞろいしている。東南アジア関連では、彫刻や絵画的装飾が美しいマレーシアやタイの東岸で利用されてきたコレック舟(写真2)、オセアニア関連ではクラ交易で有名なトロブリアンド諸島のクラカヌーもある。

 

上記のプロジェクトでは、これらの舟たちにも注目し、人類史的な視点からの比較を目的に東南アジアからの専門家を招き国際ワークショップ等も行ってきた(写真3)。今後はこれらの成果を踏まえつつ、今はお蔵入りしている素敵な舟たちをお披露目できる日が来ることを願っている。

 

小野林太郎(国立民族学博物館准教授)

 

◆関連写真

オセアニア展示のチェチェメニ号


 

みんぱくの舟専用収蔵庫とコレック舟


 

国際ワークショップに参加した東南アジアの専門家達がみんぱくの舟資料を確認している風景


 

◆関連ウェブサイト

フォーラム型情報ミュージアムのプロジェクト「海域アジアにおける人類の海洋適応と物質文化」の関連サイト