国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2006年10月29日(日)
サヨンの鐘
企画展「臺灣資料展―一九三〇年代の小川・浅井コレクションを中心として」関連

  • 日時:2006年10月29日(日) 13:30~16:00(開場13:00)
  • 場所:国立民族学博物館 講堂
  • 司会:野林厚志(文化資源研究センター助教授)
  • 解説:笠原政治(横浜国立大学教授)
  • 主催:国立民族学博物館
 

「サヨンの鐘」(1943年/75分)

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© 松竹株式会社
今回のみんぱく映画会では、1943年に封切となった松竹映画「サヨンの鐘」を上映します。
映画「サヨンの鐘」は第二次大戦以前の台湾でおこったある事故がきっかけとなり製作されました。1938年、日本統治下の台湾の宜蘭県にあるタイヤル族の村に赴任していた一人の日本人警官に召集令状が届きました。その警官は普段から村人の面倒をよく見たり、学校の教師もつとめたりして、村人や学校の生徒からとても慕われていました。警官が村を離れるとき、村人たちは彼の荷物を運びながら見送ることにしました。その中に当時17歳の少女サヨンがいました。下山の日は運悪く暴風雨となり、川はいつになく増水していました。荷物を背負ったサヨンは足を滑らせ、川の激流に飲み込まれ、そのまま帰らぬ人となったというものです。
当時の台湾総督は、出征する恩師を見送るために少女が命を犠牲にした愛国美談としてこの事故を扱い、サヨンの村には記念の鐘が贈られました。さらに、この愛国美談は、西條八十、古賀政男という当時の流行歌のヒットメーカーにより、「サヨンの鐘」という楽曲として台湾全島で流行しました。そして、この大ヒットに便乗して1943年に製作されたのが、李香蘭(山口淑子)主演の映画「サヨンの鐘」です。
開催中の企画展「臺灣資料展」の展示資料は1930年代を中心に収集されたものであり、「サヨンの鐘」からは、この時代の台湾の原住民社会の様子をうかがい知ることができます。また、当時の日本が表象した台湾原住民の人々を克明に伝えてくれると思われます。「皇民化」の号令とともに、台湾の人々は日本人としてのアイデンティティをさまざまな形で植えつけられていきます。満州映画界のスター李香蘭を起用した、まさに国策映画として製作された「サヨンの鐘」もそれを進めていく一つの手段とも言えるでしょう。一方で、植民地主義という言葉だけではかたづけることができない、台湾の人々と日本人との関係が当時の台湾にあったことも事実です。映画会では、横浜国立大学教授の笠原政治先生をお招きし、台湾原住民の人々と日本人とが共有した歴史を読み解く機会ももちたいと考えています。
当時の台湾の人々にとって、「日本人」であるということはどういうことだったのかを考えることは、現在の我々にとって、多文化社会のなかのアイデンティティのありかたを考えるうえで、何かしらのヒントを与えてくれるはずです。

 

 

〈出演〉李香蘭(山口淑子)、近衛敏明、大山健二
〈監督〉清水宏 〈脚本〉長瀬喜伴、牛田宏、斎藤寅四郎
〈音楽〉古賀政男
〈製作〉台湾総督府・満州映画協会・松竹株式会社


笠原政治 笠原政治(横浜国立大学教授)
専門は文化人類学。台湾、沖縄でフィールドワークを展開。台湾では台湾原住民のアイデンティティや歴史認識を現代的な脈絡の中で読み解く研究を行っている。最近の業績に『幻の人類学者森丑の助-台湾原住民の研究に捧げた生涯』(編訳)など。

 

定員 450名(先着順)

参加要領
映画会は申し込み不要、参加無料です。
ただし、特別展・常設展の観覧には別途、観覧料が必要です。

問い合わせ先
〒565-8511 吹田市千里万博公園10-1
国立民族学博物館広報普及室普及係(電話06-6876-2151)