国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2011年5月28日(土)
海を飛ぶ夢
研究領域「包摂と自律の人間学」

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究 者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を始めました。第3期は<家族から社会を見る>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は、 尊厳死を望む四肢麻痺の主人公とその家族や友人たちとの葛藤と共感、また、尊厳死をめぐる制度の在り方について描いたスペイン映画「海を飛ぶ夢」を上映し ます。生命の価値観が混迷している現在、この映画を通して、生きることと死ぬことについて皆さんと一緒に考えたいと思います。

  • 日 時:2011年5月28日(土) 13:30~16:30(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 整理券は10:00より講堂入口にて配布いたします。
    • 事前申込は不要です。
    • 毎週土曜日は、小・中・高生は観覧無料です。ただし、自然文化園を通行される場合は、入園料が必要です。
  • 参加料:無料(ただし、本館展示をご覧になる方は観覧料が必要です。)
  • 主 催:国立民族学博物館
  • チラシダウンロード[PDF:1.47MB]

● みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律> ―家族から社会を見る― 第10回上映会

「海を飛ぶ夢」 / MAR ADENTRO
2004年/スペイン・フランス・イタリア合作/スペイン語・カタルーニャ語・ガリシア語/125分/日本語字幕つき
【開催日】2011年5月28日(土) 13:30~16:30(開場13:00)
【監督】アレハンドロ・アメナーバル
【出演】ハビエル・パルデム/ベレン・ルエダ
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館・先端人類科学研究部准教授)
【解説】小林昌廣(情報科学芸術大学院大学・メディア表現研究科教授)
「映画解説」

若き日の事故で四肢麻痺となり、尊厳死を求めて闘ったラモン・サンペドロの手記を、スペインの鬼才アレハンドロ・アメナーバルが独創性豊かに映像化し、アカデミー賞外国語映画賞ほか数々の賞に輝いた名篇。身体の自由は失われても、想像は窓の外から海へと自在に飛び回り、口にくわえたペンを通して、はかなくも美しい情景を紡ぎ出す。難病による死の恐怖に怯えつつラモンと同志愛以上の絆を育む女性弁護士や、日常の一切の世話をする母性に満ちた義姉、死を望む弟に反発する実兄ら家族たち。そんな周囲の愛情に包まれてもなお、自ら死を選びとる孤高な男の苦悶と恍惚に肉迫したハビエル・バルデムが、命の厳粛な重みを、見事にフィルムに焼きつけている。(服部香穂里)

ラモンにとって生きること

ラモンは魅力的な人物である。深い知性をもち詩をつくり、ユーモアを有している。健康な人間であれば彼を「よく生きる」と表現するかもしれない。だが、ラモン個人にとっては、そうした豊かな人間性は自分自身のものではなく、自分には希望も存在価値もないと30年近く考え続けていた。誰もが強い愛情をもった家族の存在をとりあげ、非難と激励の混ざった言葉を彼にかけるかもしれない。ラモンもまた家族を愛しているが、それは自分の意志を尊重してくれる家族だと信じているからなのだ。ラモンはしばしば周囲の人間に言っていた。自分は誰も批判しない、だから自分のこともそっとしておいてほしいと。生命の消滅を意味する死を遠ざけて生きている人間にとって「尊厳ある死」は理解しがたいものであるかもしれないが、ラモンにとってはそれを遂行することが「生きる」ことに他ならなかった。家族にしてみれば、ラモンの死を受容することとラモンの生き方を容認することは同じことだったのだ。(小林昌廣)

「包摂と自律の人間学―家族から社会を見る―」 国立民族学博物館 鈴木紀

「包摂と自律」とは、社会の中で一人ひとりの存在が認知され、かつ尊重されることを意味します。だれもが自分らしく生きるためには、仲間はずれにされるこ となく、さりとて誰かのいいなりになるのでもない、適切なバランスが求められます。こうした状態を具体的に思い描くために、家族の姿に着目してみましょう。家族は社会から区切られた私的な空間ですが、社会の影響は家族の中にもいやおうなしに浸透し、家族の運命を揺さぶります。ある者の願いが、社会の変化や国家の制度と相いれないない時、その家族はどのようにふるまえばよいのでしょうか。映画に描かれた世界各地の家族の葛藤と、それを乗り越えるための工夫、そして他者からもたらされる支援の受け止め方を振り返ることにより、「包摂と自律」を身近な問題として考えていきましょう。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(平日9:00~17:00)