国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2015年12月12日(土)
新展示関連 映画で知る東南アジア「イロイロ ぬくもりの記憶」
研究領域「包摂と自律の人間学」
ゆったり東南アジア 春のみんぱくフォーラム2016 関連 

国立民族学博物館では<包摂と自律>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を実施しています。第7期は<マイノリティ・ボイス=少数派の声>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回はシンガポール映画「イロイロ ぬくもりの記憶」です。1997年、アジア経済危機で不況の追い風が吹くシンガポールを背景に、ある少年とフィリピンから来たメイドとの交流の物語を通して、異国で働く出稼ぎ労働者とその状況について皆さんとともに理解を深めたいと思います。

  • 日 時:2015年12月12日(土)13:30~16:00 (開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    ※入場整理券を11:00から観覧券売場(本館2F)にて配布します。事前申込は不要です。
  • 要展示観覧券(一般 420円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律>─マイノリティ・ボイス=少数派の声─ 
第31回上映会

イロイロ ぬくもりの記憶 爸媽不在家 ILO ILO
2013年/シンガポール/99分/中国語・英語・タガログ語/日本語字幕付き
【開催日】2015年12月12日(土)13:30〜16:00 (開場13:00)
【監督】アンソニー・チェン
【出演】コー・ジャールー アンジェリ・バヤニ ヤオ・ヤンヤン
【司会】菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)
【解説】永田貴聖(国立民族学博物館機関研究員)
「映画解説」

アジア各国が通貨危機に陥った90年代後半のシンガポールを舞台に、不在がちな共働きの両親に孤独感を募らせる少年と、幼いわが子を祖国に残し出稼ぎに来たフィリピン人メイドとの束の間のふれ合いを精緻なタッチで綴り、カンヌ国際映画祭新人監督賞など世界中の賞に輝いた注目作。家庭でも学校でも、反抗的な行動を繰り返す10歳の一人息子に手を焼く母親は、フィリピン人のメイドを住み込みで雇い入れる。数々の嫌がらせにも、誠実な態度で向き合うメイドの人柄が息子の心を動かし、二人は親子のように打ち解けていく。そんな姿を、仕事と妊娠のストレスを抱える母親が複雑な思いで見つめる中、社会に蔓延する不況の影が、一家にも忍び寄る。本作で鮮烈な長篇映画デビューを飾るアンソニー・チェン監督は、多感な少年期をともに過ごしたメイドの故郷の地名をタイトルにするなど、思い入れ深い自身の体験をモチーフにしつつ、甘いノスタルジーを排した厳格なショットを丹念に積み重ね、経済格差や外国人労働者問題などをはらむ当時の情勢不安にも、冷静な目を向ける。胸の奥にしまい込んでいた、匂いや肌ざわりにまつわる大切な記憶が、しみじみと甦ってくる名篇だ。(映画評論家 服部香穂里)

受け入れ社会の事情を反映したフィリピン人出稼ぎ映画

世界最大の移住労働者送出国フィリピンでは、期間契約の移住労働者を年間240万人程度、中東諸国及びアジア諸国に送り出している。多くが、介護・看護、家事労働などであり、女性が占める割合が高い。母親がこどもをフィリピンの親戚や家族に預けたまま働くということも非常に多い。シンガポールでも、多くの共働きの中流家庭がフィリピン人女性メイドを雇用していて、本作品では、フィリピンからやってきたメイドのテリー、共働きで一人っ子の中流家庭という関係の中で展開される人間模様が描かれる。これまで、フィリピン人移住労働者を題材にした映画の多くが送り出し側であるフィリピンで製作されてきた。この映画は、受け入れ側のシンガポールで製作され、シンガポール現地社会の事情が反映されている。また、時代背景となった90年代後半は、フィリピン人女性メイドへの死刑宣告と執行(冤罪の疑いが強い)、アジア通貨危機により経済が停滞するなど、フィリピン人労働者の身の危険性、雇用の脆弱性が露呈した時期であった。(永田貴聖)

「包摂と自律の人間学―マイノリティ・ボイス=少数派の声—」国立民族学博物館 鈴木紀

マイノリティ=少数派であるとは、どのようなことなのでしょうか。それは、自分の悩みが周囲に共有されず、寂しさや心細さを感じている状態だと考えてみましょう。そういう時には、自分が何をすべきか判断し(=自律)、必要ならば助け求める(=包摂)ことが望ましいのですが、なかなかそうはいきません。声に出すと、自分がますます不利にならないか、家族や友人に迷惑がかからないかと気後れします。あるいは直面している問題が大きすぎたり、恐ろしすぎたりする場合には、言葉を飲み込んでしまうかもしれません。今年度のワールドシネマでは、少数派の人びとの境遇を描いた映画を見ていきます。マイノリティの声に耳を傾け、声にすらならない感情に触れてください。その経験が、周囲にマイノリティがいることに気づいた時、そして私たち自身がマイノリティであると感じた時に、勇気をもって行動することに役立つことを願っています。

映画で知る東南アジア

虹の兵士たち (インドネシア)
  • 開催日:1月10日(日)
  • 時間:13:30~16:30(開場13:00)
  • 司会:福岡正太(国立民族学博物館准教授)
  • 解説:福岡まどか(大阪大学准教授 / 国立民族学博物館共同研究員)
消えた画 クメール・ルージュの真実 (フランス=カンボジア)
  • 開催日:1月24日(日)
  • 時間:13:30~16:00(開場13:00)
  • 司会:福岡正太(国立民族学博物館准教授)
  • 解説:サムアン・サム(国立民族学博物館外国人研究員)
 
■お問い合せ先
国立民族学博物館 企画課博物館事業係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)