国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2016年9月22日(木・祝)
禁じられた歌声
研究領域「包摂と自律の人間学」

チラシダウンロード[PDF:2.66MB]

国立民族学博物館では2009年度から、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を実施しています。8年目の今期からは<出会いと創造>をキーワードに、映画上映を展開していきます。今回はフランス・モーリタニア合作「禁じられた歌声」です。西アフリカ・マリ共和国のトンブクトゥに、ある日突然、イスラーム武装勢力がやってきて、美しい砂漠の街の平和な生活が一変してしまいます。過酷な状況の中での人びとの静かな抵抗と自由への叫びを通して、今、世界で起きている出来事について考えたいと思います。

  • 日 時:2016年9月22日(木・祝)13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    ※入場整理券を11:00から観覧券売場(本館2F)にて配布します。事前申込は不要です。
  • 要展示観覧券(一般 420円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<出会いと創造>
第34回上映会

禁じられた歌声 TIMBUKTU
2014年/フランス・モーリタニア合作/97分/フランス語・アラビア語・タマシェク語・バンバラ語/日本語字幕付き
【開催日】2016年9月22日(木・祝)13:30~16:00(開場13:00)
【監督】アブデラマン・シサコ
【出演】イブラヒム・アメド・アカ・ピノ トゥルゥ・キキ
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館准教授)
【解説】竹沢尚一郎(国立民族学博物館教授)
「映画解説」

イスラーム武装勢力に占拠された、マリ共和国の古都トンブクトゥを舞台に、自らの信条を貫くべく格闘する人びとに光を当て、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど、国際的に賞賛された注目作。理不尽なイスラーム法を強いる武装勢力の手で、ささやかな自由さえ脅かされる砂漠の街で、12歳の少女は、歌の得意な父と凛々しき母と幸福に暮らしていたが、寛容の欠如が招く悲劇の連鎖に呑み込まれていく。幼少期をマリで過ごし、アフリカを主題に作品を撮り続けるアブデラマン・シサコ監督は、世界遺産にも登録された広大な自然に畏敬の念を込め、混沌の渦中であれ、かけがえのない日常を真摯に守ろうと努める人たちの営みを、厳粛な静寂の中に描写。むち打ち刑の間も声を振り絞り唄い続ける歌姫、目に見えないボールを楽しげに追いかけて試合を満喫するサッカー少年、さらに、粗暴な振る舞いの端々に繊細な人間性を覗かせる兵士たちの姿までもが、中立的な視座から丹念に映し出される。すべてを奪い去られても、誇りだけは失わない一家が全霊で体現する愛のかたちが、崇高な余韻を残す名篇である。(映画評論家 服部香穂里)

暴力と音楽

砂漠にテントを張って暮らすトゥアレグ人家族。父と母、娘からなる家族は、両親を失った少年をひきとり、牛の世話を任せて暮らしている。一方、古都トンブクトゥの街ではイスラーム主義者の抑圧が過酷さを増していた。住民は音楽を禁止され、サッカーに興じることを禁止され、武装勢力の一員と結婚することを強制される。とはいっても、彼らは唯々諾々と従っているわけではない。サッカーを禁じられた若者たちはボールのないサッカーに興じ、武器を手にモスク(イスラーム寺院)に入る武装勢力に対してはイスラームの教えに反すると抗議するのだ。映画の見どころは、くりかえし描写される音楽や踊りである。住民は夜の闇に紛れて音楽を楽しむが、それが発覚した女性はむち打ちの刑に処せられる。むちが当たるたびに苦悶の表情を浮かべていた彼女は、苦痛がいよいよ耐えがたくなったとき思わず歌を歌い始める。暴力と抑圧に対して自由と音楽を対比させることこそが、この映画の基本的なメッセージだといってよい。古文書をすべて焼き尽くそうとした武装勢力の蛮行に対し、トンブクトゥの人びとはそれを他の荷物の下に隠して持ち出して保護したと伝えられている。トンブクトゥという都市がもつ豊かさとしたたかさこそが、この映画を魅力的なものにしているのだ。(竹沢尚一郎)

映像に描かれる<出会いと創造>国立民族学博物館 鈴木紀

グローバリゼーションにともなう人と情報の地球規模の移動にともない、世界では移民や異なる文化をもった人びととの遭遇・接触・摩擦が増加しています。その結果、移民の排斥や狭小なナショナリズムの高揚など、異文化理解に背を向ける傾向が一部に見られるようになってきました。これは異文化理解にもとづき人間の文化的多様性を探求する民族学/文化人類学にとって看過できない事態です。異質な他者との遭遇を、潜在的な脅威として否定的にとらえるのではなく、新たな文化の創造の機会として肯定的にとらえる「共創」の態度の涵養が重要でしょう。「出会いと創造」というテーマは、このような今日的課題に対する国立民族学博物館からのメッセージです。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 企画課博物館事業係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)