国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

Seoul Style 2002 E-News 『こりゃKOREA!』


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Seoul Style 2002 : E-News
『 こりゃKOREA!』
http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/200203/index 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2002.03.22 ━
 こりゃKOREA!第3号をお届けします。先日、オープン前の特展会場にお邪魔しましたが、集合住宅の一室がなかの物まで含めてすっかり再現されててびっくり!会場2階から下を眺めると家がある???不思議な浮遊感を体験できますよ。20日には、李さん一家や大勢のお客さまをお招きして特別公開とレセプション・パーティがありました。
 さぁ、ついに「2002年ソウルスタイル」のはじまりです!!
   ─展示場の様子 http://www.minpaku.ac.jp/special/200203/news/08
清水郁郎(副編集長) 
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  こりゃKOREA! 3号目次
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   ◇─2002年ソウルスタイル ここだけの話-3 もうひとつのタイトル
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   ◇─お知らせ:イベント情報等
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   ◇─編集後記:こりゃこりゃ通信

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  ● 2002年ソウルスタイル   ここだけの話 - 3
      もうひとつのタイトル
入澤ユカ(いりさわ ゆか)
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 「ソウルの魂(ソウル)」李さん一家のこの展覧会を名づけるときに、私は「魂のソウル」「ソウルの魂」ということばを使いたかった。今展ほど実現が簡単そうで、破天荒な展覧会はない。お隣り韓国ソウルの、ある一家の持ち物ぜんぶを見せるというものだが、不特定多数の人に、持ち物ぜんぶを見せてくれる一家がいるということ自体が、なかなか飲み込めなかった。やがてこの企画の意図が腑に落ちたとき、メインタイトルは「李さん一家の皆さん、ほんとうにありがとう」とすべきだとも思った。

 2001年の春頃、知人を介してひとりの男性がギャラリーにやってきた。その人こそ佐藤浩司さん、今展で李さん一家のもちもの三千数百点のものとその由来を調査した人、国立民族学博物館の建築人類学の研究者だった。

 「はじめまして、入澤です」と言ったら「いえ、はじめてではありません」と。この頃はお酒でも一緒に飲むくらい付き合わないと、顔も名前も覚えられない。挨拶もそこそこに彼は言った。「実は今じぶんたちが進めている企画について、入澤さんならどう感じるかと思って伺ったのです。入澤さんが面白がってくれたら、結構いけるかなぁと思って」と。

 ちょっと風変わりな企画と言われることの多いINAXギャラリーテイストによる反応テストかと納得。いたしかたなく、落ち穂ひろい、残りものでつくるお惣菜的企画で20年やってきたことが面会の理由だった。すかさず持参のファイルが開かれた。デジタルカメラで撮影されたモノ・もの・物。ページを繰っても繰ってもまだ続いていく。最初で唸ってしまった。「すごいですね。絶対面白い。凄い、スゴイ」ただ同じことばを繰り返していた。

 この特別展は考えた方もすごいけど、応じた方がすごい。運命みたいな企画だ。そこにあったのは「ひとの暮らしは、すべて違う貌をしている」という事実だった。似たものに囲まれても、誰もがじぶん以外の生活を体験できないということにもあらためて気づかされた。家族五人のモノという物的証拠を見せられる安堵感と不安感と、羞恥心がやってくる展覧会。何より衝撃だったのは、期せずして今展が「展覧会という概念」を溶かしてしまったことだ。概念を壊したのではなく、溶かしてしまったという感じがした。

 その理由がどこからきたのか。当然のことながら調査品はなにもかもがいったん使っているさなかのものばかりで、新品ではない。新品じゃないものは生きている姿を現すものでもあった。茶碗や箸やパンツや電気釜の何もかもが、時間と体臭などの無数の見えないものを纏っていて、そのくすみ方が圧倒的だった。私たちは珍奇なもの、美しいもの、高価なもの、一所懸命なものは見たことがあるが、普通のものを正視したことがなかった。

 3月9日、オープンまであと10日ほどの時点で、民族学博物館に設えられた李さんの住まいを夫婦のベッドルームから侵入した。いきなり目の前に白色の刺繍で飾られたベットカバーがあって、正視できず身悶えてしまった。真っ白になった頭とからだの困惑は足と手にあらわれてよろけた。いき場を失った手が思わずクローゼットの扉にふれた。開けるしかなくてひらいてみたら、鼻先に李源台さんの匂いがするネクタイがさがっていて、もっとくらくらしてしまった。

 家宅侵入という罪をおかしているようにして見た、見慣れたモノの、深淵なる姿については、もう少したたないと言葉にはならない。あのときの心理をきちんと語れるようになりたいと思った。そのことばこそが、ものに囲まれたこの時代の私という自画像なはずだから。

 「コロンブスの卵」なのだが、これまでにもさまざまな民族の持ち物を記録した写真集や、多くの学者・研究者による、住まいや暮らしの記録はあったものの、他国の一家全員のもちもののほとんどすべてを譲り受け、調査し展示し、わが国に収蔵してしまうというのは前代未聞だと思う。すでに家族のアルバム類や、夫婦が交わした手紙も、カードも貯金通帳も給与明細まで公開するという五人によって、「私は何を隠し、何を見せて暮らしているのだろうか」と自問自答しつづけることになってしまった。いまは私のみっともない姿が浮かびあがっている。

 だからこそ今展のタイトルは「ソウルの魂」「魂のソウル」であり「李さん一家のみなさんありがとう」だった。今展はにんげんを理解し、理解しあうための大きな試金石という石が降ってきた事件で、誰もがそのショックから快復していく過程で、大きな何かに気づかされることだろう。
(INAXギャラリー)

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  ● お知らせ

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       ☆☆☆「2002年ソウルスタイル」イベント情報☆☆☆
    http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/200203/event
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      ★3月23日(土)特別展関連フォーラム
        私たちの家にようこそ ─ 李さん一家とすごす一日
      ★4月7日(日)「ワンコリアフェスティバル in みんぱく」
        日韓・食のフォーラム
        マダン劇団「ノリペ シンミョン」公演
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      ☆特別展「2002年ソウルスタイル ─ 李さん一家の素顔のくらし」
      【会期:3月21日(木)~7月16日(火)】
       http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/200203/index
      ★国立民族学博物館のホームページ:みんぱくウェブサイト
       http://www.minpaku.ac.jp/
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 ■ 編 集 後 記 :こりゃこりゃ通信 ■ 
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 入澤さんは、INAXギャラリーでユニークな、いや入澤テイストな企画をつぎつぎと世におくりだしている名プロデューサー。展示のことはドシロウトなわれわれ(私だけ?)の羅針盤としてこの特別展の実行委員になっていただきました。展示をみにくる人にたのしんでもらいたいなら、展示をする側がたのしくなければだめです。そう最初に言われた言葉を私はいまもまもっています。

 その入澤さんにつれられて、私ははじめてデザイナーの勝井三雄さんの事務所をおとずれ、ポスターの仕事をおねがいしたのです。ポジャギを推薦してくれたのも、ポスターのために素敵なリードを書いてくださったのも(仕事ではなく心意気で!)入澤さんです。物事の、そしてたぶん人間の、本質を瞬時にみぬく眼力をそなえておいでなのでしょう。この展覧会が、関わった者たちの人間業をこえたパワーを結集して実現してゆく神秘の一端をかいまみせてくれています。

 「ソウルのソウル - 李さん一家のみなさんありがとう」は、特別展のタイトルとして実行委員会が決定したものの、2001年7月17日の博物館運営委員会(館内)で反対され、日の目をみることはありませんでした。このとき果たせなかった思いが、ポスターのリードにかたちをかえてのこされています。
 いよいよ3月20日に特別展のオープニング・セレモニーをむかえました。

    ─セレモニーの様子 http://www.minpaku.ac.jp/special/200203/news/16

連日夜おそくまでかかった展示場関係者の奮闘ぶりについてはいずれ紹介するとして、式典にあわせて李さん一家5人が来日されました。テープカット、スピーチ、来賓との閑談、そのあいまをぬってインタビューにテレビ取材とあわただしい一日がおわって、夕食をともにしながらオモニはしんみりとした口調でかたりはじめました。

 「この1年間、憑かれたようにこのプロジェクトに没頭してきたけれど、私はいまもまよっています。本当にこんな大それたことをしてしまってよかったのだろうか、これまで大切にしてきたものをすべてなくしてしまって一生後悔することにならないだろうか、と。以前はなんでもあたらしいものがよいとおもっていました。それが、いまは記憶のつまったふるいもののほうがよいことがよくわかります。だから、私はもうものをあつめることにあまり執着がわかなくなりました。ハルモニはなにも言わないけれど、ときどきなくなった箪笥を何気なく手さぐりしている姿をみると可哀想で、、、、」

 私もまた、そのような思いをたくされた責任を、せいいっぱいこの仕事にうちこむことで果たそうとしてきました。ねがわくば、こうした思いのいくばくかを展示にかかわったすべての人がともに理解してくれていますように。そして、できるだけ多くの人が展示をたのしみ、李さん一家についてすこしでも知っていただけたら、それがオモニやその家族のみなさんの勇気と英断と愛にたいする最大の感謝になるにちがいありません。

 21日(木)春分の日、オープン初日の入場者数は339人、23日(土)には特別展の会場で李さん一家5人をかこんだフォーラムが予定されています。
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     ※このE-Newsは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して
    発行しています。
    http://www.mag2.com/ (マガジンID:0000086722)
      E-News配信解除: http://www.minpaku.ac.jp/special/200203/news/
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編集・発行:2002年ソウルスタイル・プロジェクト・チーム 

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