国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

Seoul Style 2002 E-News 『こりゃKOREA!』


※このE-Newsは、メーラーの設定を等幅フォントにすると、最適なかたちでご覧いただけます。
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             Seoul Style 2002 : E-News

               『こりゃKOREA!』

         http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/200203/index
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2002.08.20 ━━


           実録 2002年ソウルスタイル - 2┃
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 ■韓国展メモ1■                 [2001年3月9日 8:11:40]
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 ご無沙汰していましたが、関係者宛のメールを再開します。展示の基本構想がか
 たまるまでのメモです。

 ◆韓国家庭へようこそ:日常生活のアドベンチャー
  見過ごしていた生活文化を再発見する旅。対象は韓国であってもじつは自分自
  身の似姿でもあるという驚きが展示をみる第一歩 →そのための仕掛けが鍵!
  そして、そうした日常性の背後に、韓国の文化や歴史が透かし見えるような仕
  掛け →ここもどう見せるか?

  「<もの>にはそれがそこにあるべき歴史や理由がある」O先生いいこと言い
  ますね!
  「人間は(いやおうなく)文化を背負った社会的生物である」すべての人間に
  は生きているための社会的な存在理由があるはずだ、という(子供向けの?)
  ヒューマンなメッセージでもあります(^^ゞ 透明な存在にならないために。

 ◆家族の自己紹介
  家族全員の等身大の写真とその全所持品 →どう見せる? 
  家族全員の一日の生活を撮影した映像 →どこでどう見せる?

  家族や国家、民族を前提にはしない。徹底的に個人の生活にこだわるなかで、
  「家族」や「国家」のリアリティを観客にいかに実感させてゆくか →家族写
  真、家族新聞、家族ホームページ、軍服、、、

 ◆家族それぞれの生活空間
  住宅、都市といっても、じつはそれぞれの人間によって体験する生活(社会)
  空間は異なる。 →どうやって表現するか? 床に色線をひく、足跡をつける
  、、もっといい方法は?

 ◆アボジ(おとうさん)の生活空間
  アボジの仕事は公務員です。観光関係のプロジェクトをおこなっています。今
  頃はたぶん2002年がらみの文化政策で超多忙のはず。
  会社:事務机????(発想が貧困だなあ)。かならずある家族写真にも注目
  飲み屋:屋台、看板、、、展示場地下を夜の街にできるか?
  夫婦の寝室にあるタンス(嫁入り道具)のなかのネクタイ:おとーさんは住宅
  内ではほとんど希薄な存在なのです。公務員なのに半分は能率給、「モーレツ
  社員」という日本ではなくなった言葉をおもいだします。
  車:おとーさんの城でした。騎馬民族だったのでしょうか(^.^) おくさんの
  しらない避妊具 →展示はむずかしいかな

 ◆オモニ(おかあさん)の生活空間
  家族の紐帯のしつような確認作業がおかあさんの仕事 →電話、家族新聞、家
  族旅行、家族番組の応募、等々
  デパート、市場、カルチャーセンター、エアロビスクール、、、ほか、よく知
  らないが社会参加の機会が非常に多いのが彼女の特徴。いろいろでてきそうで
  す。
  アパートの通路にならぶ味噌甕
  台所:冷蔵庫のなかは圧倒的な迫力! キムチのタッパ、キムチの材料。キム
  チ冷蔵庫はありませんでした。システムキッチンまわりで目につくのは、青磁
  の食器、金属の食器・箸、祭祀用の漆器セット。どの家庭にもある浄水器。電
  化製品は日本とほぼ同じセット。電子レンジ、電気釜、洗濯機(台所にあるの
  は20年前の間取り)、冷蔵庫、、
  夫婦寝室:嫁入り道具3点セット(ダブルベッド、鏡台、タンス)がせまい室
  内をほとんど占領しています。(夫)婦寝室といったほうがよい。夫の出張の
  さいには、男の子がダブルベッドでおかあさんと一緒に寝ていました。妹はひ
  とり自室で寝ていたので不思議な光景。韓国的なのでしょうか?
  音楽CD、雑誌:結婚前に音楽雑誌の編集をしていた関係で今も子供向けの音
  楽コンクールをマネジメントしている。
  玄関の靴箱上、テレビの左右、ピアノの上、等々の公的ディスプレー。贈答品
  きわめて多し。
  ベランダ:外壁面に窓を入れて屋内にとりこむのが一般的、洗濯物が外からみ
  える光景がない! この家庭ではプランター、焼き物の展示場。

 ◆ハルモニ(おばあさん)の生活空間 →ほとんどわからず。要調査。
  おばあさんは歌辞の伝統芸能保持者に指定されています。大学にまねかれて講
  演する機会がある。縫製の腕も一級で自分の着るものはほとんど自作。手打ち
  うどんをごちそうになりました。ふるきよき主婦像か。
  地区の老人会があるらしい(わずかな老齢年金がもらえる)が生活空間につい
  ては???病院(持病はなかったかな、、)
  田舎の家をひきはらってきたときに持参したふるい家具がいくつか(ほとんど
  ゴミあつかい)
  彫刻入りの大タンス:なかに赤青黄韓国カラーの寝具。おばあさんは一番ひろ
  い部屋で子供たちと一緒に寝ています。温突床に健康マットレス。自身の葬式
  のさいに身につける死装束一式(自作)を用意した行李がありました。

 ◆子(男の子=小学校5年生)の生活空間 →興味はなにか、学校、友達、将来
  などについてインタビューしないといけません。
  学校:机、椅子、黒板、教科書一式、給食のメニュー例(金属製の箸、スプー
  ン、フォークの3点セットを毎日持参しています)、みどりのおばさん(?)、
  運動会や文化祭はあるのか?
  勉強机:韓国製文房具、ノート類、北朝鮮をふくんだ大韓民国地図、民族衣装
  のえがかれた世界地図。
  書棚:子供用の歴史書(漫画)や伝記(絵本)は日本人がみてもおもしろい。
  パソコン:フルタイムのインターネット接続。彼は家族のホームページの管理
  者です。学校から帰るとすぐにパソコンの前にすわってゲーム!
  妹とふたりで二段ベッド。
  塾に行かずに家庭教師がきます(英語と作文だったかな、漢字も)。

 ◆娘(女の子=小学校4年生)
  学校
  カルチャーセンターでやっているアナウンサースクールにかよっている。歌合
  戦?で賞をとったことも。
  リビングの対面式テレビ(韓国家庭ではすべてそう)でいつも「ポケットモン
  スター」(韓国語吹き替え)をみていた。ベッドの枕元にはピカチュー人形。
  →この家族はよくテレビのしろうと参加番組に出演します。KBS「人間家族」
  では、この部屋でおこなった祖先祭祀のもようがみられます。展示場のテレビ
  で見せるなら、オリジナルのビデオフィルムをテレビ局から借用する必要あり。
  子供ふたりとも友達とあそんでいるところを見たことがありませんが、韓国の
  団地生活はそんなものなのでしょうか? それとも特殊例? 通学も兄妹はな
  かよく一緒。

 ◆ほか
  住宅の共通空間として
  食堂:日本では食堂の机は物置になるとか(脇においたこたつなどで食べる)、
  韓国でもリビングにお膳をおいて食べている家がありましたが、どういう例が
  多いのでしょう。
  リビング:日本では接客空間と位置づけられているため(じつは接客など不可
  能なのだが)ソファーは対面して配置する例が多いのですが、韓国ではテレビ
  にむかってソファーをひとつおきます。これは本来接客を意図したものではな
  いようですが(それともソファーの下にすわる?)、このあたりどう理解され
  ているのでしょうね??
  バス・トイレ:洗濯物干しになります。風呂はあってもはいらない?
  都市施設として
  風呂屋、床屋、コンビニ、教会、などなど

 →要するに何を選択し、どうやって見せる&体験させるか、です。

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 ■韓国展メモ2■                 [2001年4月14日 0:39:22]
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 中央コアの空間からスタートして、「扉」をあけることでそれぞれの物語(子供、
 夫婦、老人)がはじまる →ロールプレイングゲーム風。外周部分導線に工夫が
 いる。

 各部屋は家具と壁の一部で表現 →調査資料を最大限利用するが、たんなる調査
 家屋のコピーではない。見せたい物を決める! 空間はより大きく、ただし部屋
 の空間感覚を体感できるようなコーナーをもうける。
 各部屋から都市の生活空間(外周部分)へと連なる。


 ■中央コア:イントロ →→団体収容可能な空間。2階展示との有機的関係。吹
 き抜け空間の利用法。
 ・家族の等身大の写真:韓国家庭へようこそ

  扉をひらくことではじまる世界の役割を自覚させる仕掛けがいる!
  韓国の住宅事情:高層アパート、引っ越し、不動産屋の店頭
  アパートの空間:模型 →コンピュータによるウォークスルー(生活財調査デ
  ータベースの利用)可能か?
  3,000点の生活財写真 →どうみせる?
  家族の紹介
 ・ある日の全所持品→映像取材日にあわせて再調査!
  家族の確認:家族新聞、家族アルバム(結婚式、子供の誕生祝い、入学式、、)
  家族の証明:公文書類(保険証、身分証明書(IDカード)、税金納付書、登
  記簿、預金通帳・クレジットカード類
  家族の生活:家計簿(家族5人のおよその生活費)、給与明細書、アパートの
  管理費、光熱費明細書

 ■子供部屋 →学校に接続
 ・勉強机:ノート・文房具一式
 ・小学校教科書 →一式入手の手配
 ・本棚:児童書、辞書、歴史書、図鑑など一式
 ・二段ベッド →調査家屋では祖母室にあり
 ・パソコン机:パソコン(家族HP) →調査家屋では祖母室にあり
 ・床:塩ビシート・壁:世界地図、韓国地図、家族写真、卒業証書類

 ■リビング~ベランダ →イントロに扉なしで接続。ベランダより外部をみる。
 (リビング)
 ・ソファー+テーブル
 ・新聞雑誌類(週刊誌、テレビガイド、タウン情報、ファッション、音楽など)、
  商品カタログ
 ・テレビ台+テレビ →ホームドラマ映像、
 ・テレビ台上の飾り棚+飾り一式(土産、贈答品)
 ・ピアノ+ピアノ上の飾り一式
 ・電話
 ・家具型クーラー →調査家屋になし
 ・ステレオ →一般的でない? →各部屋に音楽をならす仕掛けをかんがえては?
 ・床:塩ビシート+竹マット
 ・壁:家族写真、照明
 (ベランダ) 手すりのサッシを表現
 ・洗濯物干 →調査家屋にはなし
 ・観葉植物
 ・陶磁器の飾り棚
 ・傘立て

 ■夫婦部屋 →職場に接続
 ・ダブルベッド
 ・鏡台+椅子:化粧品類一式
 ・ステレオ一式
 ・タンス:衣服類一式
 ・床:塩ビシート
 ・壁:時計、家族写真

 ■浴室・便所
 ・化粧台:洗面・化粧用品、衛生用品一式
 ・洗濯物(物干し)

 ■祖母部屋 →故郷に接続
 ・タンス:寝具一式
 ・伝統家具類:タンスほか
 ・儀式用屏風
 ・死装束
 ・床:塩ビシート
 ・壁:祖母写真

 ■玄関~通路~アパート入口 →玄関は導線の最後にイントロに誘導
 (玄関)
 ・靴脱ぎに置かれた靴一式・子供用の二輪車?
 ・下駄箱:靴一式、工具箱、靴磨きなど
 ・下駄箱上の飾り一式
 ・玄関扉に貼られたおふだ
 ・床 →段差をどう表現する?
 (通路)
 ・味噌甕(アパートの入口) →共同生活をしめすもの
 ・リサイクルゴミ箱(牛乳パック)
 ・米の共同購入

 ■食堂~台所 →市場?へ扉なしで接続
 (食堂)
 ・食卓+椅子 →朝食の献立
 ・外食産業:出前の広告等(宅配ピザ、韓国定食、ほか弁)
 ・掃除機、アイロン →調査家屋では子供室にあり
 ・壁:カレンダー、時計
 (台所)
 ・システムキッチン:食器類(青磁、金属、漆器)、調理具、洗剤、調味料、乾
  物など一式
 ・電化製品:電気釜、電子レンジ、トースター、ポット(コーヒーメーカーはな
  い)など
 ・冷蔵庫:キムチ材料、野菜など一式
 ・キムチ冷蔵庫 →調査家屋になし
 ・大型の浄水器
 ・洗濯機 →台所の外に洗濯場+物干しあることも
 ・煮沸洗濯機 →綿の下着などに使用

 ■祖母空間 →故郷に接続
 ・タンス:寝具一式
 ・伝統家具類:タンスほか
 ・儀式用屏風
 ・死装束
 ・床:塩ビシート
 ・壁:祖母写真


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 ■韓国展展示場案について■           [2001年9月18日 13:33:03]
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 昨日は運営委員会にご足労いただきありがとうございました。

 ああした会議の場では議論にながされてしまい、こちらの意図がただしくつたわ
 らなくなってしまったのではないかとおそれます。第一案にあまり乗りきれない
 理由は、多分に感覚的、身体的なもので(だからこそまずいとも感じるのです
 が)、それを言葉にまとめてしまうとどれもちがうような気がするのは事実です。
 それでもあえて書くとすればこうです。

 展示案の問題はたぶん「家族」という実体によりかかりすぎているところにある
 のだとおもいます。展示場をみた人はそこに期待したとおりの家族像をみて安心
 するでしょう。そこにあるのは、ゆるぎない「家族」を前提にした社会生活の場
 であり、そのなかに当然のようにマイホームもある。飼い主からときはなたれた
 生活財のもつ暴力的なあらあらしさも、所詮はこのちんけなマイホームの空間に
 おさめられています。そのような家族イメージや手慣れた空間デザインのもつ予
 定調和をなんとかしたいのです。ちょうど民博の展示広報用に家族の写真(ファ
 ミリーしているところ)をもとめられたときの居心地のわるさにちかいものがあ
 ります。もちろんそれは展示の一方の顔であることにまちがいないのですが。

 現代の家族は家という生活空間を共有することでしか成立しえないものであり、
 家から一歩外に出たとたんに別の世界の別の人格がひらかれているのだ(農村と
 のちがい)、そして、それだからこそ「家族」であるための空間はかけがえのな
 いものなのだ、そんな感覚が直感できるような展示空間だったらどんなにすてき
 でしょう。デ・ザインの力をわたしも信じています。

 映像取材のインタビューでは、ひとりひとりに自己紹介と他の家族の紹介をおね
 がいしました。そうやってしめされる人格の「ぶれ」をさりげなくあらわした
 かったのです。(現実にはこうしたインタビューは短期間の取材ではむずかしい)

 壁や床の材料の話は、議論のながれでそうなりましたが、本来どうでもよいこと
 です。展示デザイン上必要であると判断されるなら、たとえ壁がなかろうと、そ
 れがガラスやリアリズムをもとめたものであろうと、それは許容できるものだと
 いうことを言いたかったにすぎません。


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 ■展示場図面について■              [2001年10月3日 7:09:21]
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 私の展示感覚はどちらかというとC案にちかいのですが、全体のまとまりから言
 えばやはりA案の方向で行くしかないだろうとおもいます。B案は斬新ですが
 (コンセプトには忠実かもしれませんね)、家族のまとまりを表現する部分がな
 いために、逆になにがテーマかさえ観客はわからなくなってしまいそうです。2
 階吹抜からのながめがいまいちなのも。

 A案は、円形の内部を屋内とみたてることで、現実の間取りをのこしながら展示
 のコンセプトを実現可能にしたグッドアイデアだとおもいます。幾何にとらわれ
 すぎているのがちょっと気になりました。図としてきれいですが、実際の空間と
 して、鋭角コーナーのおさまりや、展示場平面とのズレ(吹抜、階段などとのと
 りあい)の空間的意味づけにまだ疑問がのこります。

 それはそれとしていくつか提案&注文があります。
 ・屋内空間と外周空間の関連づけにかなり無理があります。床を色分けしても、
 そのように観客を誘導する限度をこえています。これは再構成が必要でしょう。
 ・玄関を正面にもってくることにこだわらなければ、もう少し自由な構成が可能
 ではないでしょうか。玄関は屋内にはいるところではなく、屋内から社会に出る
 ところと位置づけてはどうでしょう。現実にいまの案では、靴を脱ぐにしても
 (?)玄関で脱ぐ必要がなく、円形壁面内はすべて裸足になりますね。玄関の位
 置が自由になるなら、エントランスを直接リビング(「家族」の核心)にもって
 きてしてしまうようなことも可能でしょう。
 ・小中学生の団体がくることをかんがえると、エントランス後にやや広めの空間
 に誘導できたほうがよいとおもいます。
 ・屋内配置以外の家族の展示品は基本的に地味なものばかりです。家計簿など。
 ガラスケース?が必要かもしれません。宝石箱のようにガラクタをならべましょ
 う。目をひくのは全員の所持品くらいかも。
 ・外周部分は外周部分で通り抜け可能にできないでしょうか。町を構成する大通
 りや路地裏といったイメージ。学校から会社へ、会社から歓楽街の屋台へ、屋台
 から風呂屋へ、風呂屋から市場へ、といった具合に練り歩けるとよいです。屋台
 の開口をとおると(扉をあけると?)夫婦の寝室だったりするようだとおもしろ
 い。
 ・「母親の生活」映像はあっても外周にならべる物はありません。市場にむすび
 つけるしかありません。
 ・「市場」は市場らしさをだすほど物量はないはずです。「屋台」のほうがリア
 リティの高い空間になるでしょう。看板もいくつかつかえるはずです。
 ・「風呂」はどうなることやら。
 ・車はもってきませんが、車のなかの物はもらえる手はずだとおもいます。
 ・映像用にビデオは10台ありますが、肝心の液晶プロジェクターは3台しかあり
 ません。無理しても5台が限度でしょう。とすると、モニターをおくことになり
 ますが、本体を隠すために壁をつくるなどということはしたくない。むしろ展示
 デザインのほうから映像の数に制限をもうけるようにしてください。それにあわ
 せて映像をつくります。

 Aさんが収集の仕事をほったらかして飲み歩いていたので李家以外の収集品につ
 いてまったくといっていいほどデータがありません。ろくに写真すらない! 1
 階の外周も不安ですが、それ以上に2階はいったい何をどう展示するつもりなの
 かさっぱりイメージがつかめていません。激しく糾弾してください。これでどう
 やって10月中に施工の見積りまでだすのだ?!

 施主を納得させるためにいくつも捨て図面を完成させるのはあきらかに時間の無
 駄です。5日にできればよいですが、一度私のほうがアトリエに出向いて徹底的
 に議論しながら方向を具体化していったほうがよくはありませんか?


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 ■展示場のデザイン補足■            [2001年10月8日 21:43:45]
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 以下、先日の会議できちんと意図がつたわらなかったかもしれないのでその補足。

 ●内核と外周の対比について展示場の内核は家屋の屋内空間に相当し、外周が屋
 外(つまりソウル)に相当することまではすでに了解済みとおもいます。問題は、
 外周に夫の空間、妻の空間といった割り振りをあてはめてしまうことで、たとえ
 ば旦那のラブレターを展示するとして、それが会社(=夫の空間)にあるのはお
 かしいでしょう。同様に奥さんの所有物、むかしの仕事の道具や家計簿などの家
 事用品を外周に配置するのもおかしな話です。男の世界が家庭内より家庭の外に
 かたよっているように(車もふくめて)、屋内で主婦の世界が大きな割合をしめ
 ることになっても、それは現実を反映しているだけです。だから、家のなかに
 あった物は基本的に内核部分で処理するように(ほとんど女の世界)空間の割合
 を勘案していただけたらとおもいます。


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 ■展示案について■               [2001年10月23日 14:05:43]
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 先日の展示案について、委員会のような場ではなかなか細かな議論ができないの
 で、メールで意見を書かせていただきます。

 1.入口部分(イントロダクション)に団体客を吸収するための空間的余裕がほ
 しい。全体のレイアウトから可能かどうかわかりませんが、いちおうリクエスト
 しておきます。靴をぬぐことまで考慮すると現状はきびしい。

 2.子供向けのワークショップなどをするための空間がほしい。入口右のデッド
 スペースを利用するか、あるいは思い切って「学校」にそうした機能をあてる手
 もあります。入口右の空間であれば、屋内と一体化させるような空間的仕掛けが
 ほしい。裸足のまま活動できること。ただし入口から市場や学校への動線が切ら
 れます。ワークショップに使用しないときには、子供向けの絵本や玩具をおいて
 おくことも考えられます。その場合には、12月に購入してこなければなりません。
 学校を利用するのであれば、アクセスに工夫が必要です。土足空間なので学校を
 もうすこし入口近くに配置できるとよい。

 3.上記の問題をふくめて、土足と裸足の動線の仕分けにもう一工夫必要です。
 現状では、靴を脱いだり履いたり何度も繰り返す必要があります。いったん屋内
 をみた者が、靴をはいた状態でのこりのすべての空間にアクセスできるようにし
 てほしい。

 4.こまかなこと
 ・イントロのつぎの空間が風呂屋なのはなんとか改めてほしい。風呂屋は、屋台
 や市場といった流れで配置されていると自然ですが。この位置に学校があるのが
 機能上の動線としては一番きれいです。屋内と屋外の関連についてなにかをあき
 らめる必要がありそうですね。
 ・「映像(子供の生活)」は学校のちかくでないと話があわない。
 ・屋内のなかで「夫婦の寝室」と「台所」の2室はデッドエンドになっています。
 客の通行を考慮すると、すべての部屋が通り抜けできるようにしてほしい。
 ・上記の問題と関連して、子供室の書棚はどこかに展示することが必要。とすれ
 ば、台所の冷蔵庫や夫婦寝室のタンスなどにも同様の処理が可能ではないでしょ
 うか。
 ・リビングのピアノは収集できないとおもう。
 ・車のなかの生活財は展示する必要がないか?

 5.生活財調査の写真で壁面をうめるのは面白いとおもいます。経費節減にも。
 ただし、写真はデジカメによるJPG圧縮(約1MB)の画像、しかも調査用です。
 ピンボケもあれば、背景のおかしな写真もあります。やるとしても、1点あたり
 のサイズをおさえる必要があります。


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 ■展示場デザインについて■           [2001年11月20日 13:42:48]
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 展示場の最新案を拝見しました。すでに展開図を描かれていますが、展示場案は
 まだ満足できるものではありません。さまざまな事情があることは理解している
 つもりですが、それでも可能な改変をおねがいします。2階と1階外周部分に
 かんしては現段階で議論すること自体がナンセンスな状況ですからほとんど私は
 匙をなげています。主として李さんの家のプレゼンテーションにかんして以下に
 述べます。

 1.台所の壁面をひとつはずしてください。狭い空間のなかで、人の流れを妨げ
 ない2方向アクセスの原理だけはまもっておきたいのです。ただし、子供室や夫
 婦寝室などでみられる現状の解決策はあまりよいものとおもえません。はずした
 壁のために外部の空間が仕切られて中途半端な通路がふたつできます。外した壁
 を外周の壁に寄せるか、あるいは扉をあけるように壁を配置する(スリットをあ
 ける)といった、何らかのデザイン処理が必要です。あわせて、これらの本来は
 見えない壁面(マンションの隣室との境界)の処理についても考慮せねばなりま
 せん。展示品をかざるのか? かざるとすればどういったものを期待しているの
 か? 客のアクセスがきちんととれるのか? また、かざらないとすればただの
 無駄な空間にならない工夫がいります。

 2.これをふくめて、全体にデザインが無理をしている印象があります。壁が多
 いことは、予算にはねかえるだけでなく、展示が空間に規定されすぎることにむ
 すびつきます。家の中はその典型ですが、展示空間のために収集をせねばならな
 いのは、家族にとっても私にとっても本当は余計なプレッシャーなのです。これ
 は成り行きですから仕方ないとしても、たとえば、学校や会社(風呂屋??)な
 どは四方向とも壁でかこわれています。たしかに、それで空間は再現できますが、
 4つの壁面をそれなりにリアリティをもった展示にすることは現状では不可能だ
 とおもいます。無意味な壁面をつくるくらいなら、壁をとってしまうほうがよい
 とおもいます。

 3.映像資料のあつかいに問題があります。現在の展示案はプロジェクターを4
 台ならべてインタビューをながすことになっています。外周空間のこの部分を暗
 くすれば済むことなので空間のレイアウトは楽ですが、しかしインタビュービデ
 オはそのような使用に耐えません。インタビューは顔を追うだけですし、子供の
 インタビューはほとんど内容がありません。せっかく4台用意したプロジェク
 ターをならべることで家族それぞれの個性がでるともおもえません。一番の問題
 は、インタビューにはナレーション(通訳)がつかずに字幕をつけますが、字幕
 の情報を追わせることはプロジェクター向きでないことです。プロジェクターで
 は家族それぞれの一日を等身大で追わせたいのです。子供=学校、お父さん=会
 社、お婆さん=故郷、お母さん=市場の映像があります。これなら言葉がなくて
 も理解できます。照明の問題があり、展示空間のなかでそれなりの場所を用意す
 ることが大変なのはわかります。ただ、これから無理をして壁面用に大型の写真
 をさがすより、プロジェクター映像をうまく利用する(壁面の充填に)手はある
 とおもいます。


 内周部分は、靴を脱いで裸足で走り回ったり、寝転がって展示を見たりできるこ
 れまでにない空間になりそうな予感があります。実現がとてもたのしみです。そ
 れにしても民博来訪はちゃんと私のいる日にしてください。全体を理解していな
 い人ばかりが議論していても話になりません。こんなメールを書かねばならない
 のもまったく面倒な話です。メールを読まされるのも大変でしょう。なんとかし
 てください。


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 ■Re: 展示場デザインについて■         [2001年11月24日 20:21:56]
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 ちょっとあきれた物言いなので異議を申し立てます。

 デザイナーがただ施主のいいなりに展示空間を構築する業者ではないと自覚され
 ているように、私はただデザイナーのいいなりに家族を説得して物をあつめてく
 る収集屋ではありません。民博ごときにはいつでもけつをまくる用意があります。
 そうでなければ、そもそも家族の信認をえて今回のような企画が実現に至ること
 はなかったでしょう。ご自身が企画の当初から韓国展にかかわっているのですか
 ら、こちらの事情は十分ご存知のはずです。ですから、いまさら業者対博物館の
 関係に話をすりかえるのはまったくもって卑怯な言い逃れにみえます。館の総意
 をとりまとめて、施主として業者に命令すればそれでよかったのでしょうか??
 バカヤローってことですね。

 展示空間は展示品とおなじくらい重要なもの、私もそう考えるからこそ、展示案
 が提示されるたびに、なにがしかの注文をつけてきました。デザイン意図をふま
 えて、そのなかで展示のコンセプトがただしくつたわり、展示品が最大限の効果
 をあげられるように考慮しているつもりです。しかし、現在までのところ、デザ
 イナーは自説を主張するばかりで現場サイドとの対話はまるで成立していません。
 
 空間を再現することで、デザイナーとしてその先に示したいことはいったい何で
 しょうか?

 たとえば、台所の空間(ただしくはそのヴォリューム)を再現することで、人の
 流れが遮られ、その結果として、せっかく韓国展が展示品にこめようとしたメッ
 セージにふれる機会がうしなわれるのだとすれば、私は、空間を再現することの
 それ以上の意味をデザイナーに問わねばなりません。

 一体全体、冷蔵庫の中身を一点一点しらべたり、そこにあるものをすべて収集し
 てこようなどという行為がどういう理由でおこなわれ、どういう意味があったの
 か。そうした考えの糸口を、来館者にどうやってつたえ、どうやって回答をあた
 えてゆくのか。それを果たすことが収集に応じてくれた李さん家族に対する私の
 責任です。家のなかにある物の一点一点すべてに価値を見いだして家族のこめた
 思いを記録にとどめてゆく。そうした作業の蓄積がなければ、今回の企画はとて
 も実現しなかったでしょう。家族にとってそうであるのと同様、私にとってもひ
 とつひとつの物が大切な収集品になっているのです。そして、そのような思いを
 共有できる委員がほかにいない以上、自分自身が納得できるようになるまで、作
 業をすすめることを躊躇せざるをえないのです。今回の収集品はほとんどすべて
 ガラクタです。しかし、李さんの家の生活財とそれ以外の収集品とではまるで価
 値のレベルがちがうのです。ガラクタがガラクタとしてしか見られていない展示
 には二の足をふみます。

 空間よりも人、今回の展示がわれわれに示しているのはそうした韓国人の住宅=
 家族観です。そして、そのことが、空間(住宅)に依存しすぎた日本的家族像を
 見直す契機になるはずのものなのです。現代の住宅は、社会のコスモロジーの反
 映としてつくられるのではなくて、たいていは商品として購入するものです。そ
 れを左右しているのは人間性をこえた経済原理の力で、ようするに、多くの人は、
 自由に好きな住宅をつくりあげるというよりも、あたえられた空間のなかで住み
 たいように住んでいるのが実情です。そういう現実があるからこそ、身の回りに
 蓄積された生活財をしらべることでしか、そこに住む人間にせまる手段がないと
 判断したのです。人間同士の親密さを象徴するものとしての空間と人間の蜜月関
 係はとっくに破綻している。逆説的な言い方になりますが、現在では、そのよう
 な人間=空間の破綻を表現してゆく以外に、空間の力を回復する手だてのないこ
 とが、空間デザインのかかえる宿命だったはずです。

 家族と空間の予定調和を排すこと。韓国とは、、、家族とは、、、学校とは、、
 会社とは、、、といったとおりいっぺんの理解をできるだけ遠ざけてゆくこと。
 そのための鍵は、空間も、物も、大量消費者社会の量産品であるなかで、一般化
 にさからう、人間によるその浸食作用に注目してゆくことにあります。展示空間
 はそうした認識へのきっかけ、棘やざらつきをあたえるものであって、かえって
 紋切り型の理解をおしすすめるものであってほしくありません。現在の展示場案
 のままでは、こうした思いをメッセージとして来館者につたえる自信が私にはあ
 りません。


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 ※「実録 2002年ソウルスタイル」は、佐藤から発信されたメールの実録であり、
  起きていた事実をつたえるものではありません。事実はつねに藪の中。佐藤の
  メールボックスには、特別展関連で総数1800通("こりゃKOREA"をあわせ
  ると2400通)ほどのメールがのこされています。生活財の調査にはじまり、
  データベースの作成、映像取材、ポスターやパンフレットの制作、関連行事な
  どの広報活動、図録の編集、展示場のデザイン、韓国パックの仕掛け、そして
  李家のオモニ・金英淑さんとの対話など、ソウルスタイルの実現に必要とされ
  たコミュニケーションの数と理解しています。本文の実名は伏せ字にあらため、
  一部内容を削除してあることをおことわりしておきます。(佐藤浩司)

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   ※このE-Newsは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して
    発行しています。
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          編集・発行:2002年ソウルスタイル・プロジェクト・チーム

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