国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

オセアニア(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年4月25日刊行
印東道子(国立民族学博物館教授)
ちょっと変わった魚つり

トンガの女の子たちが浅瀬でつかまえた魚と貝

オセアニアでは、魚やウミガメなど、動物性食料の多くを海から手に入れていました。浅瀬でにげおくれた魚をつかまえるのは簡単ですが、魚をつるのはそれほど簡単ではありません。いろいろな形をしたつり針を工夫し、木の葉を使って追い込み漁をするなど、それそれの習性にあった方法でうまく魚をとっていました。

カヌーからたこをあげて魚をつる変わった方法を紹介しましょう。これはダツという長さ1メートルもある口のとがった魚をとるために使われます。大きな葉で作ったたこからつり糸を下げ、クモの巣をつり針の代わりにつけます。たこの高さを調節してクモの巣が海面すれすれではねるようにすると、エサの小魚だと思ってダツがかみついてきます。ダツの口には、びっしりと細かい歯が並んでいるので、クモの巣に歯がからまって逃げられなくなるという、ウソのような本当の話です。


ダツつり用のたこをパンノキの葉で作ります

タコの習性を利用

もう一つ、オセアニアらしい方法にタコつりがあります。石の重りに宝貝をつけてネズミの形にした漁具を水中で上下させます。そうするとタコがそれにだきついてくるので、簡単につり上げることができます。なぜだきついてくるのか不思議ですが、島の人たちは昔話を使って説明してくれます。

「昔々、海でおぼれかけていたネズミをタコが頭にのせて助けてあげました。ところが、ネズミはお礼も言わず、タコの頭にフンをしてにげてしまいました。そのためおこったタコは、今でもネズミを見るとかたきをうつため近寄ってくるのです」

同じような話がこの漁具とともにトンガやハワイなどの島に伝わっていました。タコがものにだきつく習性をうまく利用した漁具ですが、かたき討ちと結びつけるところに、人々のユーモアのセンスが光っています。


タコつり用の漁具=みんぱく所蔵
 

一口メモ

ダツつり用のたこは、パンノキの大きな葉を使って作ります。そのままでは柔らかくて風を受けないので、ココヤシの葉の芯を縦横にさしてしっかりさせます。中央部分につけたつり糸の先端に、よりあわせたクモの巣をつけます。

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