国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

ルーマニア(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年6月20日刊行
新免光比呂(国立民族学博物館准教授)
村人は皆 働き者 そして歌が大好き

野外のうたげで、おどり、歌っています。

ある夏の日に、調査地となる村へ到着し、そこでの生活が始まりました。昼間、路上に人の姿はなく、だれもが野で働いています。私の滞在先となる家の主人も例外ではありません。朝早くから、数キロメートルはなれた山へ草かりに出かけ、大鎌で草をかり取っていく作業をしながら、山の彼方へと届かんばかりの声で歌っています。実によい声です。

彼が歌うのは、働いているときだけではありません。ストーブに火をくべているときにも、牛の乳を搾っているときにも口ずさんでいます。歌の種類はさまざまで、世俗歌もあれば宗教歌もあります。彼の歌を聴いていると、子どものころ、早くに両親を亡くして苦労してきた彼の、いつも変わらぬ陽気さと優しさの源をみる思いがします。


夏の暑い日差しの下で草をかる人たち

歌を愛するのは彼ばかりではなく、村人の多くは実によい声をしています。そして歌う機会は数多くあり、その代表は宴会と教会です。結婚式の宴会では人々は夜をてっして歌いおどります。

羊たちが村から夏の放牧地に出発するときに開く春の宴会でも、ルーマニアのお酒「ツイカ」とバイオリンの伴奏とともに歌いおどります。

歌に宿る力

一方、教会では神をたたえるために歌います。美しい司祭の声にあわせ、補祭による歌声がひびきます。そして会衆の声がそれに続きます。ミサにくり返し加わってみて、ともに歌うことの強い力を感じました。


乳搾りも欠かせない日課です

ルーマニアでは、たまたま耳にした歌に幾度も驚かされました。北部のマラムレシュは、とりわけそうでした。そして村の音楽家は、楽譜で音楽を学ぶのではありません。みんな耳で覚えるのだといいます。音楽はまさに音を楽しむものとして暮らしの中に存在しています。

 

一口メモ

ツイカというのは、リンゴや西洋梨などの果実から作られた蒸留酒です。とてもアルコールの度数が高いので、火をつけたら燃えるかも!トマトとくん製のブタ肉といっしょにいただきますが、ときどき飲みすぎてしまいます。

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