みんぱく世界の旅
- ベトナム(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年5月7日刊行
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樫永真佐夫(国立民族学博物館教授)
アフリカ原産の魚:ベトナムのティラピア
タックバー湖畔に建つ、ザオの木造の家ベトナムという国を知っていますか。中国の南にあるあたたかい国です。南北に長い海岸線をもち、山が多く、ことばや習慣がちがう人たち(民族)もたくさんくらしています。
そんな国の首都ハノイから北に160キロメートルはなれた山の中に、滋賀県にある琵琶湖の3分の1ほどのタックバーという大きな湖があります。水力発電のために、川をせき止めてできた湖です。
湖畔には農業をしたり、魚を飼ってくらす人たちがいます。今は湖の底になってしまった土地にもともと住んでいた、タイーやザオなどの民族です。
ティラピアを釣るザオの小学生のきょうだい。つりざおは細い木の幹、ウキは発泡スチロール、おもりは鉛のかたまりザオの村にとまったある朝、小学生のおねえさんとおとうとが湖でつりをしていました。糸をたらすと、すぐに魚がつつくのに、なかなかつりあげられないようです。
つりざおを借りてみておどろきました。5センチメートルもある鉄くぎを曲げただけのつりばりで、10センチメートルの魚をつり上げようとしていたのでした。はりが大きすぎます。
きょうだいはティラピアを10匹もつり上げると、ボートでかえっていきました。魚はからあげにして、食べるのでしょう。
市場で売られている小さいティラピアティラピアはベトナムならどこにでもいます。ベトナム語名は「アフリカの魚」。へんだと思いませんか。
同じ東南アジアのタイに、こんな話があります。約50年前、タイの貧しい人がたくさん魚を食べられるように、いまの天皇陛下がタイの王様に提案して、アフリカのティラピアをタイにもってきました。じつは、ベトナムにティラピアがきたのはそのあとです。もともとアフリカの魚だったのですね。一口メモ
ベトナムでは学校でベトナム語を習いますが、家ではことばも習慣もちがう人がたくさんいます。その人たちのことを少数民族とよびます。
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