みんぱく世界の旅
- エジプト(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年7月2日刊行
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西尾哲夫(国立民族学博物館教授)
近代化すすむ砂漠の暮らし
たくさんの商品を積んだトラックで行商人が砂漠の村にやってきます。まるで移動コンビニですね=1991年撮影アフリカ大陸の北にあるエジプトでは、古代の文明が栄えました。砂漠にそびえるピラミッドやスフィンクスを思いうかべる人も多いでしょう。エジプトは東西文明の接点として繁栄し、首都カイロは1000万人近くの人口をかかえる近代的な大都市です。
砂漠のど真ん中にある小学校で子どもたちは元気に学んでいます=1996年撮影エジプトの砂漠には、ベドウィンとよばれるアラブ遊牧民も暮らしています。遊牧民といっても、遊びながら暮らしているわけではありません。ラクダやヤギなどの家畜を飼ってその乳や肉を利用し、水と草を追って砂漠の中を移動していきます。最近は定住する人が多くなり、農園や果樹園のそばで家畜を飼いながら暮らす家族も増えました。
かつてはラクダに乗って砂漠を移動していたのですが、今は四輪駆動の自家用車を使っています。近くに住む仲間どうしで情報をやりとりするのはもちろん、無線を利用して外国のニュースにも通じています。
アラブ遊牧民(ベドウィン)のテントはヤギやヒツジの毛から作られています=1991年撮影イラクによるクウェート侵攻をきっかけに、多国籍軍がイラクを攻撃した湾岸戦争(1991年)が始まる直前、私はエジプトに滞在していました。親しくしているベドウィンの首長から、すぐ来るようにという連絡がはいりました。あわてて行ってみると、数日以内に戦争が始まるからすぐにエジプトを出なさいと言うのです。カイロの日本大使館にも聞いてみたのですが、まだ大丈夫でしょうとのこと。果たして、数日後に戦争が始まりました。ベドウィン情報の方が正確だったのです。
一口メモ
2010年の民主化運動「アラブの春」以降、エジプトの砂漠での調査はほとんどできなくなりました。砂漠では政府の目が届かず、テロ組織が活動しているからです。
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