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みんぱく世界の旅

イギリスのムスリム(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年10月15日刊行
相島葉月(国立民族学博物館准教授)
ムスリムの日常をコメディーで表現

「市民カーンの(舞台公演)ツアー終了。皆どうもありがとう。」=アーディル・レイさんのツイッターより

「シットコム」って聞いたことはありますか?学校や職場などにいるおかしな登場人物を中心に展開するコメディードラマのことで、観客の笑い声が収録されているのが特徴です。イギリス人はお笑いが大好きで、テレビをつければいろいろなシットコムが観られます。


アーディル・レイさん(左)とミスター・カーンのパネル=アーディル・レイさんのフェイスブックより

2012年に「Citizen Khan(市民カーン)」の放送が決まった時、多くの人が驚きました。一般的なムスリム(イスラーム教徒)家庭の日常を舞台とした初めてのシットコムだったからです。主役のミスター・カーンは自称コミュニティリーダー。自己中心的で迷惑なおじさんです。主な登場人物は、パキスタンから共に移住した妻と義母、そしてイギリスで生まれ育った2人の娘です。ミスター・カーンは自分の価値観を子供に押し付けようとしたり、改宗したイギリス人ムスリムのことを見下したりと、問題発言を連発します。ケチなので「旅行に行きたい」という妻の要求は無視するのに、安売りのトイレットペーパーは爆買い。イギリスにおける南アジア系ムスリムやイスラームに対する偏見までも笑いにかえてしまう衝撃的なせりふが大好評で、11月の放送にむけて、シーズン5を撮影中です。

 

イギリスの公共放送BBC製作「Citizen Khan シーズン4」の広告(2015年)=アーディル・レイのフェイスブックより

イギリスにはたくさんのムスリムが暮らしているものの、ニュースや映画に登場するムスリムはテロリストばかり。「普通のムスリム」という役柄はありません。「市民カーン」をプロデュースし、主人公も演じるアーディル・レイさん(42歳)は、笑いには差別や偏見を解消する力があると考えています。

 

一口メモ

アーディル・レイさんは「市民カーン」の映画の製作を計画しているそうです。日本でもミスター・カーンを見られる日が来るといいですね。

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