研究テーマ・トピックス|林勲男
- サゴ・デンプンを取るベダムニの女性(1990年6月、ウエスタン州、パプアニューギニア)
- 成人儀礼の若者(1990年11月、ウエスタン州、パプアニューギニア)
ニューギニア島とその周辺の島々に住む諸民族では、夢について次のように考えられているケースが多い。人間は身体とそこに内在する霊的な存在から構成されており、夢はこの霊的存在が身体から離れて経験することである。この霊的存在は、人間の活動の源泉であり、それが睡眠以外のときに身体を離れると活動が著しく低下し、病気や意識喪失状態になったりすることもある。さらに、この霊的存在が身体に戻らない場合、本人は死に至る。個人の生命力ともいえるこの霊的存在が睡眠中以外に身体を離れる原因の中で、邪術は人々の関心を最も引く。邪術師を同定し、その被害者の霊的存在を身体に取り戻すのに重要な役割を果たすのが、霊媒あるいはシャーマンと一般に呼ばれる人々である。彼らは、自分の霊的な存在を身体から分離させたり戻したりと、ある程度の統御をおこなうことができる。そうした彼らの活動においても夢は重要な経験領域となっている。
霊的存在は、まさにそのように命名されるとおり、主体の意識に対して外在したものと考えられている。西洋の心理学上の概念である無意識と、ニューギニアの諸文化における霊的存在が活動する領域という概念は、主体にとっての同一の経験を別の様式で表現したものであるのかもしれない。意識外で働く創造力の存在を自覚する経験、それこそまさに夢の創造性やインスピレーションと表現されるものではないであろうか。
- 交霊会での霊媒。交霊会は夢と同様に、可視と不可視の両面を持つ現実を理解するための情報回路となっている(1990年7月、ウエスタン州、パプアニューギニア)