国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|林勲男

植民統治下ニューギニアにおけるキリスト教宣教師の活動に関する研究

 

チャールズ・ダーウィンの進化論をめぐって、当時の自然科学者とキリスト教会は対立関係にあったと一般に考えられている。しかし、ダーウィンの考えに強い拒否反応を示したのは教会の権威や儀式を重んじる一部の会派であり、布教に携わっていた宣教師たちのなかには、自然科学者の研究を補佐するだけでなく、博物学標本を採取したり、自然科学の分野で研究を発表したりする者もいた。メラネシア宣教団のペイトソン(John Coleridge Patteson)やコドリントン(Robert Henry Codrington)、メソジスト教会ウェズリー派のファイソン(Lorimer Fison)やジョージ・ブラウン(George Brown)なども、そうしたフィールドワークの先駆者的な宣教師たちであった。


しかし、一方ではキリスト教の布教によって伝統文化を大きく変容させ、他方では人々の暮らしや自然に関心を向けながら、彼らが赴任地の住民とどのような関係を築き上げていたかは十分には明らかとなっていない。19世紀末から20世紀前半期のニューギニアにおいて活動したそうした宣教師に焦点を当て、住民との複雑な関係を浮き彫りにし、さらには、これをデータとして、自己と他者の関係の不確定性という問題を考えている。