国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|林勲男

自然災害への対応に関する人類学的研究

 
母と子
この母親は生まれ手間もなかった娘を抱きかかえたまま、津波に飲み込まれたが奇跡的に二人とも助かった(2001年11月、サンダウン州、パプアニューギニア)
小学校
津波被災地に神戸のNGOの支援によって建てられた小学校(2001年11月、サンダウン州、パプアニューギニア)

パプアニューギニアは太平洋プレートとインド・オーストラリアプレートが衝突する地帯に位置しており、また火山活動も盛んなため、地震や津波災害が頻発している。1998年7月、パプアニューギニア北岸で発生した巨大津波によって、沿岸部住民の2,200名以上が亡くなり、1万人以上が家を失った。被災直後は国際的な救援活動がなされ、医療や食糧、その他の生活物資の供給援助がおこなわれた。生き残った被災者のほとんどは、沿岸部の村を捨て、内陸に新たに建設した村々に移り住んだ。その後の復興はこれら 新村に、学校、医療施設、キリスト教会といった公共施設と被災者の住宅を再建することに重点が置かれた。一見、復興が完了したように見えるが、住民の間には様々な問題が存在している。被災者が、このアイタペ津波災害によって受けた打撃から生活を再建していくプロセスを、人類学の視点から調査している。


自然災害からの復興プロセスの研究は、災害に強い社会を作り上げるためには、長期的に見て非常に重要であるにもかかわらず、工学技術による被害の軽減化、防災体制、緊急対応などに比べると未開発な分野である。当然のことながら、この復興プロセスの調査は、被災地を含めた地域社会の防災力をいかに高めていくかの実践にもなっている。これまでの調査結果は、毎年のEqTAPワークショップで発表してきている。現在はデジタル・ミュージアムで成果を公開する準備と、パプアニューギニアの防災局、国立博物館と共同で、津波災害に関する防災意識の啓発を目的としたプログラム開発にも着手している。