研究テーマ・トピックス|飯田卓
- コンブ拾いをして、背中にしょって帰るところ
ひとくちに「漁民」といっても、さまざまな人たちがいます。毎日のように漁をする人や特定の季節だけ漁をする人、漁は通年的だが農作業の合間におこなう人など。また、魚をとるための漁具や漁法もさまざまです。銛やヤスを使って魚をとる人、小型の舟で釣りをおこなう人、刺網や曳網、定置網をはじめとする網漁にたずさわる人、大きな船団を組んで遠洋に向かう捕鯨業者... それぞれの漁具や漁法に応じてとれる魚もかわってきます。
- 北海道襟裳町浜全体のコンブ採り風景
漁民の暮らしのこうした多様性は、ひとつには個人的な好みの多様性によるものですが、そればかりではありません。魚の生息する海洋環境の条件、漁獲物の価格など水産市場の条件、市場までの保存技術や流通形態の条件、漁民自身がどの程度の投資をおこなえるかという経済的条などによって漁のタイプは制約されます。ひとことでいうと、自然環境と社会経済という2種類の条件によって漁民の選択肢は制約され、漁民たちはその範囲内で自分の好みの漁業形態を選択しているのです。
- コンブを吊るして干すところ
そうだとすれば、逆に、ある一定の地域における漁業の変遷(すなわち漁民の選択する漁業形態の幅の変化)を見ることで、その地域の自然環境や社会経済の変化が見えてくるはずです。このような視点から、等身大の人間と自然環境の関わり、そして社会経済との関わりについて記述・分析し、さらには近代化やグローバリゼーション、環境保全といった問題についても踏み込んで考察していこうとするのが漁民研究の展望です。