国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|飯田卓

マダガスカル/インド洋

 
巻網漁法
小魚(キビナゴ)を巻網漁法で捕っているところ

マダガスカルは、アフリカ大陸の東方約400キロ沖合に浮かぶ島国です。島の面積は、グリーンランド島、ニューギニア島、カリマンタン(ボルネオ)島に次いで世界で四番目に大きく、日本国土の約1.6倍の広さがあります。近年は、日本のテレビでもこの島国がときどき紹介されるようになりました。数多くの種類のキツネザルやバオバブの大木などは、この島の独自な自然の象徴といってよいでしょう。また、文化の面でも独自で、近くのアフリカ大陸だけでなく、遠くインド洋を隔てた東南アジアとの間にも共通点が見いだせます。たとえば、この国の公用語であるマダガスカル語は、ヴェトナムの一部や東南アジア島嶼部、台湾、ミクロネシア、メラネシアの一部、ポリネシアなどの言語と同じく、オーストロネシア語族という言語系統に属します。


鮫漁
サメを捕ったところ

マダガスカルと東南アジア方面とのこうした結びつきは、古い時代にインド洋交易が盛んであった証拠だと考えられています。この推測は、文献でもかなりの程度裏づけられます。たとえば紀元前後のローマ時代、東南アジアと東アフリカは、いずれも香辛料などの物産をヨーロッパに供給する重要な地域でした。また、ヨーロッパを介さずに東南アジアと東アフリカに交易関係があったことは、たとえば14世紀に中国で書かれた『宋書』にも見えます。それによると、東アフリカから連れてこられた人びとがシュリヴィジャヤ(スマトラ島)で音楽や踊りを披露していたといいます。


海鼠採取
ナマコを採っているところ

マダガスカルはまた、東南アジアのほかに西アジアや南アジアからも文化的な影響を受けています。アラビア語を起源とするマダガスカル語は曜日の名をはじめたくさんありますし(これは東アフリカのスワヒリ語などにおいても同じです)、なかには古代インド語であるサンスクリット語の語彙なども借用しています。もちろん、東アフリカからの影響も強く、動物の名などたくさんのバントゥー語族系語彙が用いられています。


さまざまな文化的背景を持つ人びとが活躍する舞台となったインド洋。その名残は、今もマダガスカル文化の中に息づいているといえます。