国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|関雄二

古代アンデス文明の形成過程の解明

 
北クントゥルワシ遺跡とふもとの村
クントゥルワシ遺跡とふもとの村

物質文化の解析など考古学的な手法を用いて、古代文明の形成過程の解明を試みている。古代アンデス文明と聞くと、すぐにインカの名を思い起こされるが、インカは15世紀後半から16世紀の前半にかけての100年にも満たない短命な古代文化の一つにすぎない。インカ以前には、数多くの古代文化が開花しており、なかでも、農耕定住が確立し、土器も製作されるようになる形成期(紀元前2500年~紀元前後)には、巨大な神殿が建設され、社会発展の中心的な役割を占めていたと思われる。私の所属する東京大学古代アンデス文明調査団は、これまでその名称を何回か変更してきたが、終始一貫してこの形成期の神殿を発掘調査してきた。

 
クントゥルワシ遺跡発掘現場
クントゥルワシ遺跡発掘現場
クントゥルワシ遺跡発掘現場
クントゥルワシ発掘現場、作業員が道具の前で並んでいるところ
カハマルカ盆地における地質学的調査
カハマルカ盆地における地質学的調査

最近では、ペルー北部高地のカハマルカ地方にあるワカロマやクントゥル・ワシと呼ばれる神殿を発掘調査し、文明形成の胎動期の社会を分析している。そこで得られた結果は、生業が安定し、余剰生産物が生まれた後に社会統合としてのイデオロギーが洗練化されるという従来からのマルクス主義的な文明形成論ではなく、神殿などのイデオロギーに関連した施設が社会の下部構造の安定前に出現し、これらが牽引車となって逆に生業などの下部構造の発展を呼び起こすという考え方を提示した。必然的に研究方法は発掘と分析(遺物分析や科学分析)が主となる。


また2001年度には、自然科学者と共同してペルー北高地で文理融合のプロジェクトを開始した。具体的には、先述のカハマルカ盆地を地質学者と踏査し、遺跡の分布パターンと地質学的データとの関係を追究している。人間の生活活動は必ずしも自然環境によって一義的に規定されてしまうような脆弱なものではないが、カハマルカ盆地の場合、遺構に見られる石材、遺跡の機能、形態と地質学的特徴とは強い相関関係を持つことがわかってきた。さらに、当時の生活財として重要であった土器の原材料である粘土の採取地もいくつか特定することができ、遺跡の分布パターンがこうした粘土採取地と関連を持つことも予想される。今後は、ペルー文化庁の許可を得て持ち帰った土器のサンプルを科学的に分析し、産地同定を行うことで、当時の経済システムの復元を試みようと考えている。


さらに、花粉分析なども実施して、生業体系と気候変動との関係を追究し、形成期社会の総合的な解明を行っていきたいと考えている。