国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|関雄二

ラテン・アメリカの観光開発

 

クントゥル・ワシ村の社会開発、文化遺産保護の思想への関心から一歩進み、現実の政策現場で、研究成果がどのように還元できうるのかを追究しようとする実践的な試みである。具体的には国際協力事業団の観光開発マスター・プラン作成プロジェクトに参加し、従来のODAで欠けていた地域住民への配慮と、綿密な社会調査に基づく住民自身の意志を計画に反映させるべく努めている。こうした現場は、とくに世界大的規模で推進される文化遺産保護のまさに前線ともいえ、多くの応用人類学的データが得られる。

 
世界遺産クスコの街並
世界遺産クスコの街並

これまでペルーの計画に参加したが、これについては一応終了し、現在はグァテマラのプロジェクトに参加している。ペルーのケースは、現在、現地で訴追の対象となっているアルベルト・フジモリ・フジモリ大統領の肝いりで実現した案件で、例の大使公邸占拠事件をはさんで2年以上もかかった。事件後、日本政府側の危機管理が異状なほど厳しくなり、全国を対象にするプロジェクトながら、調査に出向くことが許される場所は極度に限定され、実に歯がゆい思いを経験した。

 

しかもプロジェクトが完成するのと機を一にして、フジモリ大統領の職務放棄、日本への逃避事件が起こり、フジモリ政権を全否定する現トレド政権は、何億円かかったかわからないこのプロジェクトを無視し続けている。完全に政治に振り回されてしまった。

 
グァテマラ、観光地チチカステナンゴの市場
グァテマラ、観光地チチカステナンゴの市場

現在、携わっているグァテマラ・プロジェクトにおいても、実状は似ている。ともに考えるべきカウンターパートの観光庁スタッフは、長官の更迭の度に総入れ替えが行われ、実務に継続性はない。さらにグァテマラにおいては大変微妙な問題である先住民についても、考慮するといいながら、どこまで真面目に考えているのか疑問になる場面にしばしば直面する。発展途上国にエリートの持つ古いタイプの近代化思想を打破することは、かなりエネルギーがいることだと感じている。