国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

自然との共生(4) ─ 津波は天つ波 ─

異文化を学ぶ

昨年末のスマトラ沖地震で、ツナミという日本語は世界中に知られるようになった。

波の大きさをどんなに強調しても、津波の形容にはならない。災害の映像を見た各国の報道官は、そう直感したのであろう。東南アジア山間盆地のタイ族のひじょうな物知りに、ツナミをどう訳すのかきいてみた。海を知らない民族が、どのようにこれを表現するのか興味深かったからである。フォン・ファーとよんでみるといい、と彼は言った。直訳すれば「天つ波」。この天(ファー)は空のことではない。不意なことに驚いたとき、彼らは「ファー!」と声を上げる。人知をこえた圧倒的な力の形容が「天」なのである。

僻地の人々が津波は単純に大きな波でないと直感できるほど、映像メディアは世界を席巻している。

国立民族学博物館 樫永真佐夫

毎日新聞夕刊(2005年5月11日)に掲載