国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

花(7) ─ インカの王と花 ─

異文化を学ぶ


ペルーのアンデス山中にあるマチュ・ピチュは、ユネスコの世界遺産として有名だが、自然と一体化した複合遺産の登録がなされていることを知る人は少ない。

うっそうと茂る密林では、じつに200種ものランが花を咲かせ、エコツアーも盛んである。

1911年の発見以来、謎の遺跡として語られることが多かったが、近年では、インカの礎を築いた第9代王パチャクティの私有地であるとの説が有力である。

この王は、花をこよなく愛し、マチュ・ピチュの王宮にも庭を持っていた。死に際し、花の歌を口ずさんだ。「私は、庭のアイリスとして生を受け、アイリスのように育った。そして今、齢(よわい)を重ね、この世から去っていく。」征服戦争にあけくれた王にしては哀(かな)しい歌である。

国立民族学博物館 関 雄二
毎日新聞夕刊(2007年5月16日)に掲載