海と人(7) ─追憶─
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ヘミングウェイの晩年の小説に『老人と海』(1952年)がある。老漁師とカジキマグロとの長時間の格闘。その証しでもある獲物は、帰港の途中、サメに食われてしまう。全編を覆う人生晩年の孤独感が、作家の生涯と重なりあい、心に迫るものがある。
パプアニューギニアの津波被災地で、この小説の情景を思い浮かべたことがあった。ある老人が、海での漁について生き生きと語ったのち、突然おし黙ってしまった。津波で流失した家屋や船、そして亡くした家族や友人たちを思い出したのだ。
多くの紛争や自然災害を乗り越え、この地に到達した祖先たちの移住の歴史。被災地の人びとは、みずからの体験をどう理解し、何を後世に伝えたいのだろうか。彼らの心の声をとらえたい。
国立民族学博物館 林 勲男
パプアニューギニアの津波被災地で、この小説の情景を思い浮かべたことがあった。ある老人が、海での漁について生き生きと語ったのち、突然おし黙ってしまった。津波で流失した家屋や船、そして亡くした家族や友人たちを思い出したのだ。
多くの紛争や自然災害を乗り越え、この地に到達した祖先たちの移住の歴史。被災地の人びとは、みずからの体験をどう理解し、何を後世に伝えたいのだろうか。彼らの心の声をとらえたい。
国立民族学博物館 林 勲男
毎日新聞夕刊(2007年7月18日)に掲載