国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

移動する(6) ─母系制と妻方居住─

異文化を学ぶ


マレーシアのヌグリ・スンビラン州では、母系制と妻方居住が習慣化している。母系制の社会では、母から娘に家屋や田畑などの財産が相続される。妻方居住とは、結婚後、夫が妻の家へ移り住むという居住規則である。

結婚式の夜、新郎はカバン一つ提げて新婦の家にやってくる。新婦の親族が住む家で所在なげにしている新郎の姿を見かけることもある。

ちなみに、この社会では一夫多妻制も採用されており、男性が第1夫人から第2夫人のもとへ移り住む場合もある。ただし、財産は女性が持っているので、女性が生活に困ることはない。 

とはいえ、男性が移動するこのような社会においても、女性に好まれるのは、家族のために身を粉にして働く男性なのである。

国立民族学博物館 信田敏宏
毎日新聞夕刊(2007年9月5日)に掲載