国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

都市(6) ─先住民のアデレード観光─

異文化を学ぶ


オーストラリアの中央部は、乾燥した砂漠地域である。そこにはピチャンチャチャラ語やワルブリ(ワルピリ)語、アルンタ(アランダ)語を母語とする先住民が暮らしている。集落には学校もマーケットも、診療所もある。

そこに暮らす彼らは、折りにふれて家族で、あるいは友人とヒッチハイクやバスに乗って1500キロをこえるアデレードへの旅にでる。100万都市は刺激にあふれている。その人工的なきらびやかさのなかに身をおき、心おきなくビールやワインを楽しむ。これも旅の目的のひとつである。砂漠の集落は禁酒が原則だからだ。

しかし、彼らは観光客とはみられない。粗野で、いつも酔っている砂漠の先住民だとうとまれる。お金を貯(た)め、アボリジナル・ホステルに宿泊している旅なのに。

国立民族学博物館 松山利夫
毎日新聞夕刊(2007年11月7日)に掲載