国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国は今(4) ─「満州国」邦人民家のいま─

異文化を学ぶ

中国は今(4) ─「満州国」邦人民家のいま─


吉林省の省都・長春は中国でも独特の景観を持つ街だ。この地を訪れた者は、ユニークなデザインの建物群に目がくぎ付けとなる。ここは新京と呼ばれ、「満州国」の首都だった。日本の城を模して造られた旧・関東軍司令部や同じく国会議事堂に似せた旧・国務院、そして興亜式と呼ばれる各種の旧・行政機関などの建築物が、そのままに残されている。

だが、「満州国」の残像はそれだけではない。裏通りに立ち入れば、22万の邦人を擁した新京のにぎわいを古い集合住宅が伝えている。現在でも低所得層の生活の場として活用されているが、可愛らしい丸窓や装飾付きの柱に過去の栄華をのぞかせつつも、朽ち果てる寸前で耐えているものが多い。2階以上の窓が破れたまま、1階の正面部分だけが携帯電話の代理店になっているというケースまである。

他方で、日本の企業人や観光客が押し寄せている大連の邦人民家には、華やかさが見られる。かつての庭付き一戸建ての邦人街は、「日本風情一条街」と呼ばれる観光スポットだ。中には、民家を復元して、しゃれたカフェやレストランにした例もある。

同じ「満州国」の残像でも、大連では遺産となり、長春では民情を帯びてたたずむ。開発と成長に躍動する現在の中国では、同じく邦人が暮らした民家でも、その処遇に劇的なコントラストが見られる。

国立民族学博物館 太田心平
毎日新聞夕刊(2008年2月27日)に掲載