国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

労働と宗教(3) ─畑仕事とキリスト教─

異文化を学ぶ


南太平洋のバヌアツ共和国。人々は伝統的にタロイモやヤムイモなどを主食としてきた。町では、パンや輸入されたコメもよく食べられている。けれども、村では依然としてイモ類が主食だ。

村人たちは、イモ類やそのほかの作物を焼畑でつくりながら、自給自足的な生活をおくっている。そう言うと、気が向いたときにだけ畑仕事をし、あとはのんびり自由気ままに過ごしていると思われるかもしれない。ゆったりと時間が流れる「南の島の楽園」イメージそのままに。

しかし、実際はそうでもない。平日に村を訪ねてみても、人影がまばらで、ひっそり静まりかえっていることの方が多い。雨でも降れば別だが、村人たちはたいがい、朝食を済ませると夕方ごろまでずっと畑に出ているのだ。畑の手入れをしたり、その日の食べ物を収穫したり、やることはいくらでもある。

畑仕事が繰り返されるそんな毎日のリズムを変えてくれるのが日曜日。バヌアツの人々はほとんどがキリスト教徒。この日ばかりは、晴れていても畑に出る人はいない。水を浴び、晴れ着に着替えて教会へと向かう。午前中のミサに参加した後、家に戻って石蒸し焼き料理のごちそうを楽しみ、午後は家でのんびりする。そう、南の島の村では安息日の日曜日にこそ、ゆったりとした時間が流れるのである。

国立民族学博物館 白川千尋
毎日新聞夕刊(2008年4月16日)に掲載