国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

労働と宗教(8) ─仕事の時間、祈りの時間─

異文化を学ぶ



イスラム教徒であるマレー人には、1日5回(夜明け、正午、午後、日没、夜半)、礼拝する義務が課せられている。私が留学していたマレーシアの大学にも構内にイスラム礼拝所が設置されており、マレー人の学生や教職員に利用されていた。

大学の1日のスケジュールもイスラムの礼拝時間に合わせたものになっていた。始業時間は、夜明けの礼拝に合わせて、午前8時と早く、昼休みは、礼拝時間を含めて、2時間ほど取られていた。金曜日は、モスクでの集団礼拝のため、午後3時ごろまで昼休みが設定されていた。

植民地時代、イギリス人は、華人やインド人に対しては「勤勉」、マレー人に対しては「怠惰」というレッテルをはっていた。マレー人は祈ってばかりいてちっとも仕事をしないと思われていたのである。しかし、そのような理解は表層的に思える。

マレー人は「仕事の時間」と「祈りの時間」を両立させて生活しているのである。そもそも「仕事の時間」という考え方は近代的なものであり、マレー人は祈りの時間と近代的な仕事の時間との間で折り合いをつけるようになったのかもしれないのだ。

この話は、勤勉が美徳とされる近代資本主義の仕事観を再考するのに一つのヒントを提供すると思うのだが、いかがであろうか。

国立民族学博物館 信田敏宏
毎日新聞夕刊(2008年5月21日)に掲載