労働と宗教(9) ─神さまの都市─
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サンパウロ市の郊外に「神さまの都市」と通称される地域がある。ブラジルの大手銀行ブラデスコが本社をおくところで、社宅、幼稚園、小中学校、コープ、発電所があり、さらにサッカーなどのスポーツ施設、くわえて企業博物館までそろっている。もっとも「神さま」と命名されてはいるが、信仰は自由なので、教会はない。
ブラデスコは1943年、サンパウロ州の田舎町マリリアで創業された。創業者のA・アギアールは「労働のみが富を生む」という経営理念をかかげ、役員にも個室をあてがわず、机には引き出しがない。上下分け隔てなく共同でオープンに実務にはげむことが徹底されている。
そのモデルは、禁欲的キリスト教というよりも、日本人移民のはたらく姿であった。創業者は「日本的もしくは日本人的に働くこと、全員が、女・子どもも含めて、休むことなく、たゆみなく、きびしく働くことです」と述べ、それを尊い教訓として「いわば日本的労働をブラジルに確立することから出発した」と明言している。
今年は日本人がブラジルに移住して100年。コーヒー農園の契約労働者がいつしか自作農になり、農業協同組合まで組織した。その組合章のひとつが働き蜂だったことも示唆的である。
国立民族学博物館 中牧弘允
毎日新聞夕刊(2008年5月28日)に掲載